不連続戦線に異常なし、黒川想介(1)

18世紀から19世紀初頭に生きたイギリスの哲学者ベンサムは「最大多数の最大幸福」という功利主義の思想を説いた。18世紀の中頃からイギリスで産業革命が始まったと言われている。ベンサムは産業革命で沸騰している社会に生きた人で、それまでの世界とは様変わりし、物質的に豊かになっていく半面、都市に集まる人々の貧困ぶりと格差を目の当たりにして、この思想に行き着いたのだろう。 「最大多数の最大幸福」とは、簡略して言えば幸福とは個人的快楽である。個人の総和が社会であるから、最大多数の個人が最大の快楽を享受することこそ人間の目指すものだという思想である。近代に生きたベンサムが現代の先進諸国を見たら「最大多数の最…


分岐点(2014年4月16日)

ある制御機器メーカーの経営者は、テレビを見ていて、開発に関連することでふっと気付かされることがあるという。客先をたびたび訪問し談笑するのが好きで、会社の席に座っていない。毎日、訪問先に出掛けて観察し、製品開発につなげている。いつも頭の中は開発の案件が多数詰まっており、運転中や家の出来事でも開発に関連付けてしまう。 全国の商社を指導して回っているある先生は、商社の営業社員と中小製造業を訪問したとき工場を見学した。検査部門で、検査冶具を並べてその前で幾人もの従業員が作業している光景に唖然とした。不合理な生産性の悪い検査業務に、事務所で毎日、改善対策ばかり考えていたが、あるとき工具の改良と作業方法を…


分岐点(2014年4月9日)

先日、81歳の制御機器商社の社長にお会いした。待ち合わせの場所に早めに着いたからと言いながら、メガネを外し読んでいた本を閉じた。パソコンの教科書である。会社に毎日出勤するだけでも驚きであるが、パソコン教室に通っているという。八十の手習いで覚えられないよと照れながら、インターネットを使って楽しんでいる話をこちらに向けた。 原稿書きやデータ収集以外にパソコンと向き合わないので、楽しみ方をあまり知らない記者にとって、果たして80歳を超えてから新しいことを学ぶエネルギーがあるのだろうかと会話の中で思案しつつ、大いに刺激をいただいた。他の定年退職者に聞いたら、やはり毎日2時間程度パソコンを操作している。…


混沌時代の販売情報力、黒川想介(103)

かつては漢字の社名の会社が多かった。最近では圧倒的にカタカナを社名にする会社が多くなっている。漢字で社名を表していた時代には社名を見て、何をつくっているか、だいたいの予想がついた。しかし、最近のカタカナの社名からは何をしている会社か、何をつくっている会社か想像がつかないことが多い。バブル経済がはじける前後から、社名を漢字からカタカナに変える会社が多くなった。当時の若者気質が漢字よりカタカナを好み出したせいもあって、リクルートの関係からカタカナに変えた会社が多かったようだ。 今ではこの傾向がすっかり定着し、電気・電子の業界も立石電機はオムロンに、和泉電気はアイデックに、松下電器はパナソニックに、…


分岐点(2014年3月26日)

毎年多くの新社会人を見てきたが、一様に明るい笑顔が素晴らしい。初々しさが、社会人として年輪を重ねると、それぞれ異なる顔つきになってくる。歩む路、歩幅がどうしても顔に出てくる。やがて部下を持ち、部署全体に目配りする立場になったとき、周囲から好まれるか疎んじられるかは、会話力次第である。 入社時から会話力を意識して養うことであろう。とくに、仕事をミスしたときこそ、真の会話力が試される。未経験の分野を仕事に取り込むケースが多くなるのだから、失敗の場面が増えるのは当然のことで、仕事の過程を説明する言葉がしっかりしていれば、周囲も会社も責めはしない。失敗は挑戦の裏返しなのであって、むしろ、有望社員とみら…


混沌時代の販売情報力(102)

販売員が担当している顧客には様々な業態がある。一般的に業態と言えば小売業や外食産業などの商業関係で用いられる区分のことを指している。例えば、コンビニ、スーパー、デパート、ドラッグストアなどのように顧客の欲求に合わせた商品の仕入れ、価格、立地、規模などの基準をもとにした態様のことを言う。電子・電機製品や計測・制御機器営業は一般商業とは違うが、顧客の態様を区分する必要がある。区分基準は商材を基準にするのではなく、営業側から顧客の全体を見て区分するのがよく、顧客の事業内容や顧客はどんな設備で物づくりをしているかなどを基準にして区分するのがよい。それらの基準で分類し、大くくりである大分類の概念がこの業…


新刊紹介 名古屋工業大学産学連携センター編集 「伸びる製造業の賢い大学の使い方」

国内産業の空洞化に伴い、日本のものづくりの危機が懸念されている。日本のものづくりの強みは大企業から中小企業までピラミッド型の裾野の広さであり、これらががっちりとスクラムを組んで国際競争を勝ち抜いてきた。しかし、新興国などの追い上げもあり、海外に生産をシフトする製造業が増えている。 また、新技術開発のスピードも速くなっており、投資が回収できないうちに技術が陳腐化するリスクも高まっている。 特に、中小企業にとってはこうした流れは新製品・新技術開発で、資金的にも人材的にも負担が大きい。 製造業の開発負担を軽減し、支援してくれるところとして見逃されているのが、大学との連携だ。 本書は、2007年から産…


分岐点(2014年3月19日)

市場が細分化する一方で、顧客の扉がこじ開けられない時代になってきた。開発技術者は、エンドユーザーの現場が見られず、販売担当者も行き慣れた会社に偏りがちである。このような壁に突き当たったときに、信頼関係にまで行き着いた人脈が頼りになるのは昔も今も変わらないが、最近はITも利用価値がある。 本紙連載「混沌時代の販売情報力」の著者である黒川想介氏は「顧客情報やマーケット情報を的確に捉えられなければ、企業は成熟市場でこれからの拡大路線に出遅れる」「顧客の現場が微妙に変化していることを察知できなければ、真の販売員の役目を果たしていない」と言い切る。そして、売り上げに余り関係がないからといって、情報収集に…


分岐点(2014年3月12日)

ゴボウやネギなど長根菜を引き抜く補助具「ごぼう抜き」という商品名が日刊工業新聞社のネーミング大賞ビジネス部門2位に選ばれた。そのものずばり連想でき、記憶しやすく、日頃食べているので親しみを感じる。この商品の開発者で名付け親が、制御機器業界の社長なので、また驚いた。 タイマー・タイムスイッチ専門メーカーのスナオ電気社長の和泉三雄氏である。もともとネーミングにはこだわりを持ち、1週間タイマーを「カレンダータイマー」として売り出しヒットさせた実績がある。3年前には「しずおか美人」を商標登録した。顧客であるメロン栽培農家の役に立ちたいとの想いが発想の原点にあり、ついに静岡産農作物の販売会社まで設立した…


混沌時代の販売情報力(101)

世の中の経済は、需要と供給の関係で成り立っている。景気が悪いのは需要が足りないのに供給が余っているために起こる。失われた20年と言われる以前にも供給が需要を上回り不景気がたびたびあった。しかし在庫調達と少しの生産調整で再び需要が供給を上回り、不景気に終止符を打った。今から思えば当時の景気のサイクルは単純なものであった。つまり、人口が継続的に増加して新たな需要者が増加していたことが大きく起因していたのである。 もちろん、それだけではない。裕福になった国民が、必要以上の豊かさに合った需要を追い求めたからである。しかし裕福に合った需要も、突き詰めれば当時の必要性のある製品を少しばかり高級にしたもので…