日本の製造業再起動(98)【提言】上智大学の惨状『不人気の外国語学部』欧米からアジアへ・開花する『第四次産業革命』

筆者の事務所は東京・日本橋にある。コロナで傷ついた都心の姿も、徐々に回復している。外国人観光客も増え、ホテル満室率が上がり、宿泊代も急騰している。昼食時には、街中がサラリーマンで溢れる光景が、都心が正常に戻っていることの証明である。ある日、昼食時のレストランで、隣りに座ったサラリーマンとおぼしき熟年男性4人の会話が聞こえてきた。『最近、街に外国人が増えてきたね』『白人が多いな』『白人で良かったよ。中国人には来てほしくない』と言っていた。『欧米人を歓迎する一方で、中国人や韓国人を避ける』という偏見は、よく聞かれる話である。ところが、これらの偏見は深く考えずに生じた場合が多い。政治衝突のテレビ報道やちょっとした外国人との出会いから、漠然と「好き嫌い」を決めつけていることが多く、 熟考することで、国籍に偏見を持つ危険性に気がつくはずである。

ここに大変興味深い記事がある。「選択4月号」の雑誌に、上智大学外国語学部の人気が急落している記事が載っている。上智大学外国語学部の人気凋落を具体的な数字を持って示し、欧州言語、特にドイツ語学科とフランス語学科、及び英語学科の不人気を報じている。かつて「ソフア・イルージョン(上智幻影)」の象徴として、受験生に畏敬の念をもたせる特別性は、「欧米崇拝の消滅とともに衰退」との見方ができる。記事中では「優位性の喪失と陳腐化」という強烈なタイトルをつけて上智大学外国語学部「衰退の惨状」を解説している。この記事は続けて、「欧州よりアジアの言語」との副題で、アジア言語も学科としてそろえる「神田外語大学」を例に取り上げ、英語・スペイン語・ポルトガル語の凋落、韓国語・ 中国語・タイ語・ベトナム語の人気上昇を指摘している。今や、全国の大学で第二外国語の一番人気は、圧倒的に韓国語と中国語である。昭和時代に、第二外国語といえば、ドイツ語・フランス語が双璧であったが、今やドイツ 語・フランス語の泡沫(うたかた)は顕著である。ここから見えるのは、『アジア時代の到来』を確信する若者たちの鋭い洞察力である。

1990年代以降、日本経済はアジアを消費市場として急速開拓した。特に中国では、生産拠点の進出に加え、巨大な消費市場としての役割を担ってきた。 日本の製造業を取り巻く環境は、欧米中心時代からアジア中心時代にシフトしているのは明白である。欧米崇拝は古き日本人の象徴となりつつある。 製造業では、10年前からドイツのインダストリー4・0が現代の黒船として日本に来航した。米国のインダストリアル・インターネットなども日本で紹介され、日本製造業のデジタル 化への遅れが強く指摘され、インダストリー4・0崇拝、欧米崇拝が闊歩した。2018年には経済産業省が、DXレポートを公表し、日本中に「DXブーム」が巻き起こっているが、話題だけで実践に欠けていると言わざるを得ない。ここで改めて、産業革命の歴史を振り返ってみたい。

数百年前に大英帝国で始まった産業革命は、キャラコというインド産綿製品の機械化に成功した。人類初の「機械の誕生」である。産業革命の勢いは、ドイツ・フランスに波及し、白人による世界支配、大英帝国による世界覇権も始まった。第二次産業革命は、米国で起きた「電気の誕生」で、大西洋を超えて世界に広がった。 電気を使う製造工場の誕生である。生産性は飛躍的に向上し、世界覇権も大英帝国から米 国に移った。第三次産業革命は、太平洋を渡り、我が日本につながる。自動化工場の開花である。 日本は『Japan as №1』と言われた黄金時代がやってきた。太平洋を中心に、世界の製造業におけるイノベーションが進展した。第四次産業革命は、どこの国で起きるのか? ドイツのインダストリー4・0、米国インダストリアル・インターネット、中国製造2025、日本のソサエティー5・0など、各国が製造業界の覇権を争う中、第四次産業革命は「インド洋周辺国」で開花すると見られている。「大西洋」から「太平洋」、そして「インド洋」へ・・。「産業革命世界の旅」は、これまでの歴史が物語るように、次なる展開を迎えることになるだろう。

インド洋周辺国は、インドを始め、オーストラリア・ニュージーランドから中東、アフリ カ諸国、東南アジア各国など若いエネルギーに満ちあふれている。勿論、欧州文化や日本文化、そして米国の強烈なパワーが消滅することはないが、インド洋周辺国の国際進出は、 今後ますます加速することが予想される。日本が取るべき道は、欧米崇拝に偏りすぎず、偏見をなくし、世界中の若いエネルギーと協力し、新しい時代に対応することである。これが、日本を成長軌道に乗せるための唯一 の道だと考える。

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。

電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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