道路交通法改正「飲んだら乗るな。乗るなら飲むな」白ナンバー車を複数使用の事業所もアルコール検査が必須に 義務化でアルコール検知器の需要拡大

「飲んだら乗るな。乗るなら飲むな」飲酒運転をしない、させないことは、法律で決まっていると同時に、人として守るべき社会的義務でもある。しかしながらいまだに飲酒運転はなくならず、2020年の飲酒運転による交通事故は全国で2522件に上り、このうち死亡事故が159件発生した。飲酒運転の厳罰化に加え、昨年はコロナ禍で外出の自粛や飲食店の休業があったにも関わらず、これだけ多くの事故が発生し、人命が失われている。

こうした背景もあり、国家公安委員会と警察庁は道路交通法を改正し、飲酒運転の撲滅に向けて規制を強化。タクシーやバス、トラックなど、いわゆる「緑ナンバー」の車を保有する運送事業者に対し義務化していたドライバーへのアルコール検査の適用範囲を、一般事業者の「白ナンバー」の営業車にも拡大。2022年4月から施行開始される。日ごろから営業車で客先訪問を行っている企業の多くがその適用対象の範囲内となるため、今からアルコール検査のための設備一式と運用ルールの整備、社員への注意徹底が必要だ。

飲酒運転の規制さらに強化 22年4月施行営業車も対象 現在の検査義務化は「緑ナンバー」の運送事業者

アルコール検知器による検査が義務化されたのは2011年。旅客自動車運送事業運輸規則及び貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正を受け、運送事業者に対して義務化された。
対象は、タクシーや路線バス、観光バスなど一般旅客自動車運送事業者、通勤・通学用バス、送迎バスなど特定旅客自動車運送事業者、トラックなどで貨物を運ぶ貨物自動車運送事業者(一般・特定・貨物軽)の、いわゆる「緑ナンバー」の車両を保有する運送事業者となっている。

営業所でのアルコール検知器の設置と保守、点呼の実施、指導監督が必要

義務化の内容は、事業用自動車を保有する運送事業者は、ドライバーに対して乗務の開始前と後に行う点呼の際、対面による目視とアルコール検知器を使って酒気帯びの有無を確認する。各営業所には必ずアルコール検知器を設置し、さらに遠隔地で乗務終了・開始する時用に携帯型のアルコール検知器の用意や車両へのアルコール検知器取り付けなど対策を講じる。さらにアルコール検知器は毎日の電源確認と、最低週1回の正常稼働をチェックする。これらはすべて義務となり、怠ると罰則が課せられる。

違反した事業者には厳しい罰則 飲酒運転で行政処分、即時事業停止も

法令を守らなかった場合の罰則は、アルコール検知器の備えをしていなかった場合は初違反60日車・再違反180日車、アルコール検知器の常時有効保持義務違反の場合は初違反20日車、再違反60日車の行政処分が課せられる。
またドライバーが飲酒運転を引き起こした場合、ドライバー個人に対する罰則と同時に、事業者に対しても初違反100日車、再違反300日車の行政処分となる。

さらに、事業所が飲酒運転を下命または容認していた場合は即時14日間の事業停止。飲酒運転などをともなう重大事故にかかわる指導監督義務違反の場合は即時7日間、飲酒運転などにかかわる指導監督義務違反だと即時3日間の事業停止が課せられる。

飲酒運転は反社会的行為 業界も本腰を入れ対策強化

運転の厳罰化とアルコール検知器による検査義務化を受け、運送事業者も対策を強化。
公益財団法人全日本トラック協会は「事業用トラック運転者による飲酒運転は反社会的行為であり、トラック運送業界の社会的信頼を著しく失墜させるばかりでなく、これまで築き上げてきた、荷主はもとより社会全体からの信頼関係をも根底から崩壊させかねない悪質な行為」とし、業界を挙げて飲酒運転撲滅に注力。事業用トラックにおける飲酒運転件数・事故件数は、2011年の120件・35件から2018年には82件・20件まで減少したが、さらなる減少とゼロに向けた活動を進めている。

緑ナンバーの運送事業者への義務化で成果が上がっている一方、抜け穴となっているところもある。それが「白ナンバー」で貨物運送を行っている事業者の存在だ。
基本的に白ナンバーでの貨物運送は自社の荷物しか運搬できないが、トラックなど大型車両を利用している事業者も多く、彼らのうちで飲酒運転や死亡事故が多く発生している。2021年6月に千葉県八街市で発生した、飲酒運転のトラックによる登校児童への死傷事故も、白ナンバーで貨物運送を行っている事業者だった。
そこで国家公安委員会と警察庁は道路交通法を改正し、アルコール検知器による検査義務化の範囲を、こうした「白ナンバー」で貨物運送を行っている事業者にも拡大。2022年4月から施行を開始することとした。

5台以上の自動車を使う事業所対象 全国に33万カ所超

今回、義務化の対象範囲となるのは「白ナンバー」で貨物運送をしている事業者だが、その適用範囲は想像以上に広いので注意が必要だ。
対象となるのは、道路交通法で「安全運転管理者専任事業所」として規定されている事業所で、2018年末時点での安全運転管理者専任事業所の数は全国に33万7632カ所ある。
具体的には、乗用車を5台以上(バイク1台は0.5台)または定員11人以上の自動車を1台以上使用している事業所が当てはまる。道路交通法では、これに該当する場合、事業者は社内で安全運転管理者を設置し、警察に届け出て法令遵守や交通事故防止につとめなければならないとされている。

これは営業車で客先をルートセールスで回っている、軽自動車で配達をしているなど、いわゆる普通車を使っている事業所でも、5台以上使っていれば適用範囲内になる。トラックやマイクロバスのような、分かりやすい貨物運搬用車両に限らないので気をつけなければならない。
さらに、対象事業所に所属するドライバー数は750万293人に上る。彼らが乗務する際には、もれなくアルコール検知器による検査の義務が発生する。

義務化の内容は、従来の緑ナンバーの貨物運送業者に適用しているものと同じ。乗務開始前と後に点呼する際、目視とアルコール検知器による酒気帯びのチェック、事業所へのアルコール検知器の設置と機器メンテナンスが必須となる。唯一異なるのは、罰則の有無。2022年4月の施行では、罰則を設けることが見送られている。とはいえ、状況によって変更される可能性もあるので、対象となる事業所はアルコール検知器とそのチェック体制を備えておいた方が安全だ。

アルコール検知器の商戦もスタート

罰則をともなわないとはいえ、義務化によってアルコール検知器の需要増加が見込まれており、各社はその取り込みに向けて商品化と営業を強化している。

エレクトロニクス商社のカナデンは、顔認証付き体表面温度測定とアルコール検知システムをセットにしたソリューション提案をスタートした。システムは、タブレットPCを中心に、顔認証と体表面温度測定システム、アルコールチェッカーを統合したシンプルな構成。小型で簡易的なので、事業所の出入口などにスペースを取らずに設置できる。

はじめに顔認証で個人を特定し、新型コロナウイルスなど感染症対策としてマスクの有無と体表面温度を測定してタブレットPCに表示。続いてアルコールチェッカーで呼気中のアルコール濃度を測定すると、タブレットPCにOK/NGが掲出される仕組みで、アルコール検知器による検査義務化に対応。測定したデータはタブレットPCに蓄積し、履歴データはいつでも閲覧できる。測定時に異常値が出た場合は、管理者へメールで通知も可能となっている。アルコールチェッカーの呼気の吹入口は市販のストローで代用でき、衛生的にも経済的にも使いやすく、またオプションで血圧測定や血中酸素濃度測定、印字用のプリンタなども追加できる。

廣瀬関西支社電子システム部長は「ある保守サービス会社のお客さまは、現状、安全運転管理者が手書き台帳にアルコール点検、体表面温度を計測・記録していました。毎日朝夕の2回、該当する従業員全員に対して点検を実施して帳票に記録、ファイル保管するのが社内ルールになっていて、業務負担が大きいと感じていたそうで、当社のアルコール検知システムを提案しお試しいただいたところ、電子的に一元管理してくれるのは法令順守や業務効率改善に便利で、チェック時の記録映像が保存されることは客観的な証明にもなり、トレーサビリティーの観点から見ても非常にありがたいとの声をいただきました。当社としてもお客さまニーズに合致する製品提案ができることに大きな手応えを感じています」という。


現在、運輸関連のほか、医療や介護事業者などへの提案も強化。また鉄道事業者などへの提案でも反応は上々だという。また点呼機器とアルコール検知器の専門メーカーの東海電子も展開を拡大。業務用アルコールチェッカーをはじめ、アルコールを検知するとエンジンを始動できない車載型アルコールチェッカー(アルコールインターロック装置)、点呼システムなどの製品をそろえ、9月からはアルコール検知器のレンタルを開始。さらに義務化にともなう対策セミナー開催やYoutubeでの注意喚起の動画公開などを進めている。


2022年4月の施行が近づいているが、義務化に対する市場の反応はまだ薄い。カナデン守屋常務取締役執行役員関西支社長は「飲酒運転による重大事故はなかなかゼロにはならない大きな社会問題であり、国として今回義務化によって適用対象の範囲も広げ飲酒運転の撲滅を目指す最後の切り札を出されたと思います。弊社が開発したアルコールチェッカーが少しでもお役に立ち、悲惨な事故の減少、撲滅のお役に立てばと思います」と話している。

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