【産業用ロボットを巡る 光と影(34)】補助金は誰のため?何のため?大事な税金が既得権者のために使われる現状

補助金の採択率100%!?

過去の記事で補助金が無駄になっている現状を述べたが、今回は別の視点で述べる。

筆者は産業用ロボットのコンサルタントで全国の工場の効率化を実現しているが、先日もある中小企業(以下、A社)の社長から「採択率100%の補助金申請のサポート会社(以下、B社)が存在し、依頼したら本当に採択されたとの情報を得た。

まず、B社についてだが、天下りなどで国との関連が強いそうである。この時点でかなりブラックな感じがするが、B社のホームページ上では『他の補助金申請サポート会社では、採択率40%くらいだが、B社は80%』『ノウハウを持っている』などの記載をしているが、口頭ではA社の社長に「うちは、国の審査員との距離が近いので、実際は採択率100%です」「その代わり、補助金額の10%を報酬に頂きます」と説明したそうだ。つまり、ノウハウ=国の審査員との距離が近い、ということである。

1回の申請書サポートで200万円

さて、A社が採択された金額であるが、約3000万円である。補助金額は約2000万円なので、B社への報酬は約200万円である。200万円というのは、堅気の世界では相当の血と汗を流さなくては稼げない額であるが、B社がそれだけの仕事をしたとは到底思えない。なぜなら、申請書の元になる資料はA社が用意するので、B社の仕事は『加点されるワード』を最大限使用し体裁を整え、審査員にA社の名前を(証拠が残らないように)伝えるだけのようだ。これだけで報酬200万円で、別件では補助額が6000万円以上も申請していると聞くと、もはや空いた口が塞がらない。

補助金は、誰の為?何の為?

本来、中小企業への補助金の役割というのは、中小企業ではなかなか金額が高くて手が届かない設備を導入させ『生産効率を上げる(その方法として、ロボット化/デジタル化など)』ということが目的である。

そして補助金により生産効率が上がった企業は、大きな利益を上げることにより納税額(法人税)が増える。効率化により社員の給料も上がるので、従業員の納税額(所得税など)も増える。つまり、補助金が何倍にもなって国に返ってくる。企業も国も潤うということが究極の目的であるはずである。

しかし実際は、一部の既得権を持った人間にだけお金が流れていき、イノベーションを起こそうとしている中小企業にお金が届かない、もし届いたとしても効率化に全く活かされない。更に、ゾンビ企業にお金が回っていることも目に付く。

A社の社長も「真面目に補助金の申請をしている会社は採択されず、可哀想だ 」 と言っていた。まったく同感である。

なお、当社が最も得意とする仕事は『ロボット化やデジタル化などで生産効率を上げること』であり、実際に多くの企業から評価をいただいているので、このようなイノベーションを起こしている企業に補助金がほとんど回らないことを実感しているため、非常に強い違和感を覚える。

ITのプロからみたIT補助金

話が少しずれてしまうが、最近話題になっているIT補助金にも強い違和感を覚える。なぜなら、この補助金は『デジタル化の推進による効率化/テレワーク推進など』をするためのようだが、実際には効果がなく、ただの国の自己満足となっている。

実は、筆者は『ロボットのプロ』だけでなく『ITのプロ』でもある。この会社を立ち上げる前は(プログラマー兼)システムエンジニア(一応、「超一流と言われていた)であった。

その視点で言わせてもらうと、このIT補助金は、『100万から200万円程度のCADソフトや業務用ソフト』の販売を伸ばす餌にしかなっておらず、デジタル化でもなくコロナ対策でもなく効率化でもない。たとえ多少の紙媒体をデジタル化できたとしても、また多少テレワークが進んだとしても、この程度で生産効率が上がることはない。つまり、前述した補助金の意味を全く成していない。大喜びしているのはソフトの販売商社ばかりだ。その証拠に、製造業の多くの企業は、このIT補助金の補助額の上限を見て「イノベーションを起こすには安すぎる」と申請さえしない。

これでは、ソフトの販売商社と国との関係が疑わしいと思われても仕方がない。国は「透明性(見える化)」を高めるイノベーションが必要だ。

デジタル民主主義では透明性が最も大事!

日本は、世界と比べて圧倒的に透明性が低い。

例えば、台湾ではデジタル化に成功しているが、その原因の一つが徹底的な透明性であり、それにより国民からの信頼を得ていることは、国際的にも周知されていることである。

日本でも、国は補助金の上限や採択不採択の判断基準(「なぜか?」)を公表すべきである。デジタル民主主義においては透明性が最も大事であるのに、日本はダントツで遅れている。国は大事な血税が使われていることを忘れてはならない。

お代官様と越後屋の馴れ合いで子供たちの未来を壊すな!

しかし残念ながら、なかなか現状は変わらないだろう。なぜなら、筆者が最も嫌いな「既得権」をもつ者同士、いわゆる時代劇で見るお代官様と越後屋の馴れ合いだからである。これら自己中心者たちがこの国を蝕んでいるかぎり、子供達に「より良き未来 」 を残すことはできない。この者たちを「成敗!(時代劇の名ゼリフ)」する正義の味方は現れないのであろうか?

 ◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。

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