製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (49)

コロナ禍で不安になっている学生向けの話について

変化に対応できる選択肢の準備を

 

先日、非常勤講師をつとめる福井大学の講義がありました。今日のコラムでは、講義での話の概要を述べてみたいと思います。

どのような話をしようか迷いましたが、昨今のCOVID-19の感染拡大に伴い不安を抱えている学生が多いだろうと考え、「学生を終わった後の予習-不確定要素の多い社会を生きるために-」という題目で話をしました。聴講対象は3年生、もしくは4年生の理系学生です(一部国際系の文系の方も含まれるようです)。

私が担当しているのはフロントランナーという講義ですが、一般的には自社紹介などが多いようです。そのような話ももちろん有意義かと思いますが、せっかく技術者としての実務経験と、企業経営者としての経験も蓄積しているのであれば、そのような視点から大学生に何を伝えられるか述べた方が有意義と考えたのが、テーマ設定の背景にあります。

 

昨年度までのように教室での登壇はできないのでオンラインでの授業でした。出席者数は数えていませんが50人以上はいたようです。顔も見えない中ではありましたが、できるだけ一方通行にならないよう、こちらから問いかけ、学生の方にも発言してもらいました。ほとんどの学生から返答があり、きちんと自分の意見を述べてくれていました。

顔は見えませんが、多くの学生の声から感じるのは、「つかみどころのない不安との闘い」ということです。もしかすると、社会での生き方をまだわからない学生という立場故、より不安になっているのかもしれません。当然といえば当然でしょう。

そのような学生の方々の不安を少しでも取り除くには何ができるか。それを考えた時、自然と社会人としての予習をし、自ら答えを導き出すきっかけをつかんでもらうという今回のテーマが何かしらの役に立つかもしれないと感じました。詳細は講義でしか説明できない部分も多いですが、概要を以下で述べてみたいと思います。

 

学生は必ずしも社会人より楽とは限らない

決めつけのように話す方が多いため、まずこのような話をしています。学生は経済力、信頼、経験が無いためできることが大きく制限されます。これは、「挑戦するという範囲が狭くなる」ということを意味しています。

このような話を一例に、必ずしも社会はもっと大変だ、学生の方が楽だという話に流されず、将来について悲観的にならないでほしいと伝えました。

 

雇われるということ

何かしらの組織に属する以上、まず求められるのは「言われたことをきちんとこなす」ということです。成果を焦らないでください、という話をしています。

また、営利団体、非営利団体の強みと課題についても解説しました。加えて、家業を継ぐ、起業するといった生き方もある、という話をすることで、自らの選択肢を狭めない様、話をしました。

 

学生にも必ず訪れる加齢による環境変化と衰え

ここは学生の方には驚きの部分が多かったようです。年齢を重ねれば階級も上がり、文句を言う側から言われる側に、従業員から会社の立場にと、さまざまな変化が起こります。加えて、自らの年齢が上がることで吸収力や柔軟性が衰える一方、配偶者や子供、そして両親等の自分以外の身近な人間の健康などによる影響も大きくなり始める時期になってきます。

このような自らが年齢を重ねることで訪れる環境変化を、できるだけ早い段階で理解し、それを想定した動きをどれだけできるか、ということが重要と伝えました。

 

学生時代に行ってほしいことについて

ここはシンプルに4つのキーワードを伝えました。

①実験重視。研究室に所属したら手足を動かす実験や研究に対して、積極的に取り組む。理論は大切ですがそれだけに走らず、実経験も大切だということは技術者にとっても同じことです。

②一生懸命。研究室生活は社会生活の練習舞台。精いっぱいやってみる。先生や先輩と議論し、必要に応じて指示を仰ぐ。目の前のことに手を抜かずに取り組めないようでは、企業で必要とされる技術者や研究者にはなれません。

③自主調査。わからないものにぶち当たったら、まず自分で調べる。インターネットに頼りすぎず、文献や専門書を読み解く力をつける。これは顧問先の技術者の指導で強く感じていることです。これができる技術者とそうでない技術者とは、伸びに雲泥の差があります。

④文章作成力。自分の考えをわかりやすく伝えるための必須スキル。これは何度も述べていることです。これができない技術者は必ず早い段階で上げ止まります。

上記のどれも社会人になってから大変重要なスキルであることを伝えました。

 

学生からの質問

2名だけ質問をしてくれました。その中で1名の学生の方の質問は、「加齢に備える必要があることはわかったが、具体的に何をした方が良いか」というものでした。それに対し、以下の3点を心がけてはどうかと回答しました。

「①自らは歳をとるという事実から目をそらさない」年齢を重ねるということを常に予測できていることで、逆算して今何ができるか、を考える俯瞰的な視点が重要。「②自己管理を怠らない」心身共に健康であることが何よりの基本。体を大切にする。「③若いうちに厳しい仕事や挑戦をする」いろいろな厳しい経験を糧にできるのは若いうちの特権。若いころに厳しい仕事から逃げると、逃げ癖がついて人生の選択肢が狭まる。上記のようなお話をさせてもらいました。

 

将来についての万能解は無い

最後に伝えたのは「将来の不安を消す万能解は無い」ということでした。これは、世の中のだれも持っていないということも伝えました。しかし、だからと言って何もしないとさまざまなリスクに自らをさらすことになる。

そこで、あらためて述べたのは、「さまざまな変化が起こった時にそれを乗り越える柔軟性の基本となる選択肢を自分に用意しておく」ということでした。万能解が無い以上、答えは臨機応変に自分で導き出すしかありません。その答えが正解かどうかの確度を高めるには、そもそも、その回答の選択肢を増やすしかないのです。

なかなか難しい時代になっていますが、やれることはいろいろあるということだけでも伝わったのであれば意義は十分あったと思います。少しでも将来を担う学生の方にとって有益な情報であることを願うばかりです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。

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