【提言】コロナ報道に埋もれた2大事件の深層【コロナ禍が教える日本ものづくり課題】(その6)〜日本の製造業再起動に向けて(69)

新型コロナ第3波襲来が本格化している。テレビ各局はこの報道をトップニュースとして、感染者が増大している地方行政の首長や専門家を登場させ、深刻度と警戒の報道に躍起となっているが、連日の新型コロナ報道の裏側で、菅政権主導の2つの大事件が起きている。

この2つの大事件を取り上げた報道は稀有である。テレビ各局が報道しない大事件の深層。今後、多くの中小製造業が大きな影響を受けると危惧されるこれらの事件について確認をしていきたい。

 

まず確認すべき最初の大事件は、最近耳にする『中小企業改革』についてである。これには「生産性の低い中小企業を淘汰すべし」といったニュアンスがあり、中小企業にとっては青天の霹靂(へきれき)というべき菅政権方針として、今後政府が掲げる具体策を注視する必要がある。

この背景にはイギリス人、デービット・アトキンソン氏の影響があると言われている。アトキンソン氏は菅首相のブレーンであり、政府が設置する『成長戦略会議』に正式起用された。アトキンソン氏は伝説の親日家アナリストと評され、今日まで菅義偉氏の政治施策に大きな影響を与えてきた。今後も菅首相の信任を受け、更に非常に強い影響力を持つと予想される。

アトキンソン氏の最新刊著書『国運の分岐点』では、中小企業を「時代遅れ」と断じ、「日本経済低迷の原因は中小企業であり、日本の生産性向上の足かせとなっている。中小企業への優遇を続ければ、日本経済は間もなく行き詰まる」と警鐘を鳴らして、中小企業数の半減を提言している。

アトキンソン氏の提言は、日本人の常識を覆すものである。「日本のものづくりは中小企業によって支えられ、中小企業の力こそが最大の差別化」という日本の常識と誇りさえも、アトキンソン氏は真っ向から否定している。日本政府がアトキンソン提言を鵜呑みにし、中小企業の淘汰に踏み切ることなどあり得ないと信じるが、菅政権の構造改革の旗印とともに、中小企業基本法の改定などを皮切りに、中小企業を苦しめる不気味な足音も聞こえている。

 

次に確認すべき2つ目の大事件は、11月15日に国際調印された『RCEP(アール・セップ:東アジア地域包括的経済連携)』についてである。RCEPとは、日本など15カ国(中国・韓国・豪州・ニュージーランドおよび、ASEAN10カ国)による自由貿易協定であり、15カ国の首脳会合が行われ、各首脳はオンライン形式での署名式に臨んだ。

日本からは菅首相が出席し、参加国全体で工業品・農林水産品を含め91%の品目で段階的に関税を撤廃するFTAが発足した。この動きはわが国に強い影響をもたらし、中小製造業の経営判断にも重要なポイントとなる大事件である。コロナ騒ぎや米大統領選挙のどさくさに紛れ、国民の関心を避けて中国主導で調印に至った。米中戦争の先行きも混沌としている中で、RCEPは十分な報道や国民議論もされずに調印された大事件である。

当初、参加を検討していたインドは、この加入を拒絶した。日本はインドを味方に中国を牽制する戦略であったが目算違いとなった。

 

数年前を思い出すと、TPPの締結に向けて各主要テレビ局が連日のごとく解説し、わが国の農業事情・製造業事情など異なる観点から、TPP反対派・TPP賛成派が入り混じって議論が白熱し、国民を二分する関心事となったが、今回は何の国民議論もなく、さしたる報道もされない中でRCEPが締結された。

菅首相は「自由貿易の推進が必要だ」と述べているが、グローバル社会が後退する潮流の中で、反日を叫ぶ中国や韓国にも関税撤廃を推進するRCEPは、日本にとっての国益ばかりでなく新たな難題を与えるのは必至で、中小製造業の将来経営を左右する大きな動きである。『中小企業改革』や『RCEP』には、各界より強い批判があるのも事実である。

しかし最大の問題点は、これらの重要な事が声高に報じられることがなく、その反対の声も報道されず議論も巻き起こらないことが、今日の日本の最大の問題点ではないだろうか?

 

日本の津々浦々に存在する中小製造業は、コロナ禍の影響で依然として厳しい状況が続いているが、経営者は未来への挑戦を続けている。各中小企業の経営者は独自の戦略を繰り出し、この危機を乗り越えようとしている。特に2020年春先より政府がコロナ対策として打ち出したIT導入補助金やものづくり補助金の『コロナ特別助成』は、経営者に勇気を与え、コロナ禍の厳しい状況にもかかわらず、IT化投資に踏み切る企業が続出した。20年は、コロナ禍という特殊な年にもかかわらず、新たなる投資を実行し、未来への扉を開いた中小製造業が多く存在したのは素晴らしい事である。

第4次産業革命のイノベーションは、スマホ普及などで世界を変えている。中小製造業のものづくりも第4次産業革命の恩恵で大きく変貌するのは間違いない。中小製造業が最先端技術を導入し、高い生産性に変革するのは大手製造業より容易である。

産業革命の歴史は、大昔の大英帝国で機械が生まれ、第2次産業革命は米国で電気が誕生し、第3次産業革命はコンピュータの誕生による自動化システムが現れた。第4次産業革命は、インターネットを中心とするイノベーションである。第1次産業革命から第3次産業革命は、実現と普及に膨大な投資を必要とし、大手企業のみが産業革命の恩恵を受けてきたが、第4次産業革命は中小製造業の出番である。日本のものづくりは、あらゆる観点から中小製造業に大きな伸び代があるのは明白である。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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