製造業・世界と戦う担い手づくり エキスパート待望 (48)

技術者に自社製品やサービスを対外的に説明してもらう際の留意点

他と比較し強みを定量的に表現

 

今回のコラムでは技術者育成において、情報発信型マーケティングの要である「自社製品を対外的に説明してもらう」という業務を技術者が行う際の留意点について考えてみます。

 

技術者がその強みを生かしてマーケティングを行うのは必須の時代

時代の流れが速く、市場要望の多様化する現代において、「技術者が市場ニーズを把握する」ということはますます重要になってきます。市場ニーズを把握するためには市場調査を調査会社に依頼するというのが一般的ですが、本当に知りたい内容を知るためには調べる側にもその業界の専門性が必要である上、時間と費用がそれなりにかかります。そして技術者は市場ニーズ把握に極めて重要な役割を果たすことができます。

この際にキーとなるのは、「情報発信型マーケティング」という手法です。この情報発信型マーケティングを技術軸に強みを有する技術者が行動できるようになることは、市場ニーズを把握するという企業活動において極めて重要な意義を持ちます。

 

技術者はあくまで技術の強みに軸を置き、営業とは異なるアプローチを

技術者は営業職の方々と異なり、さまざまなことを売り込むために相手とコミュニケーションをとりながら、懐に飛び込んでニーズを把握するということは得意ではありません。これは技術職の人間の特性であり、逆にいうとここに無理に労力を割く必要はありません。営業は営業職にある程度は任せるというように、得意なことはある程度専門的な人材に任せた方が合理的だからです。

それよりも「自社製品やサービスを対外的に紹介する」という情報に営業やマーケティングをさせるという、技術者の強みを生かせる新たなマーケティング手法を習得した方が技術者にとっては有益です。このような技術者からの自社製品やサービスの紹介は、うまく機能すると潜在的な顧客の掘り起こしにもつながる重要なアクションです。なぜならば技術者は製品紹介を行った際に出てくる技術的な質問に対し、的確に返答できる可能性が高いからです。

この技術的な質問に対する的確な返答は、質問者に対し信頼感を与えるため、その質問者が紹介されたものに対して関連したニーズを有する場合、該当する情報を提供してくれるということが背景にあります。

 

情報発信型マーケティングを技術者に行わせる際の留意点

しかしいざ技術者に自社製品やサービスを対外的に紹介するという段階になって、「自社製品やサービスを対外的に紹介してもらう際、何に配慮させればいいかわからない」ということで悩むことがあるのではないでしょうか。この悩みへの回答を考えるにあたってポイントとなるのは、「技術者は自らの技術や専門的な強みを話すことはできても客観的に比較できない」ということを理解することといえます。

技術者は専門性至上主義にのっとり、「知っていることこそ正義」という思考回路で動きます。そのため、自らの知識が特別であるということを周りに認知してもらうことに執着心がある傾向があります。これは決してすべてが悪いわけではありませんが、情報発信型マーケティングをやる際には障害となってしまいます。

そこで、情報発信型マーケティングに基づいて自社製品やサービスを紹介する際には「自社製品やサービスの技術的な強みは何か、そして競合他社製品との違いを定量的に説明する」ということを徹底させてください。まずは技術者が苦手とする「技術的な強みを述べる」ということです。

 

技術的に優れているということは、「知っている」という従来の技術者の思考では情報のアウトプットができない難しいテーマです。なぜならば一般的な技術職の方々は、「技術を知っていてもそれがどのようなメリットがあるのかを説明できないと顧客にとっては意味が無い」という事実に直面する機会、すなわち顧客と接する機会が少ないからです。よってここは、「自社の技術でどのようなメリット、特に課題解決などの提案ができるか」ということを常日頃考える鍛錬が必要です。

さらにもう一つ重要なのが、「競合他社製品の理解」です。特に小売業においては、類似の製品がほぼ100%あると理解していいでしょう。それでも顧客から自社製品を検討してもらう、または選んでもらうためには、自社製品が他と比べてどこが優れているのか言わなくてはいけません。総合職の方々にとってのこの当たり前の思考回路は、技術者にとって非常に理解し難いようです。

さまざまな企業の指導や外部での講演で何度も「類似製品や競合製品との比較をしてください」と指示をしてもできる方は全体の1割以下という印象です。そのくらい自らの製品やサービスを客観的にみるというのは技術者にとって難しいことなのです。逆にいえば何度も繰り返し訓練することで、自社製品と類似製品や競合他社製品との比較ができるようになってきます。

 

そして最後が「定量的に説明する」ということです。技術者の方と多く接していますが、若い方ほど定量評価が苦手な方が多いという印象です。大きい/小さい、早い/遅い、長い/短い、厚い/薄い、熱い/冷たいといった表現を多く使う技術者が意外にも多いのです。

ここは寸法、時間、距離、温度といった世界最強のグローバル言語である数字を用い、誰にでもわかりやすく定量的に話をすることが強く求められます。技術者の強みは物事を定量的に表現し、多くの人に技術的な内容の理解を深めさせるということ。この力こそが情報発信型マーケティングにおいて、技術者が輝く場面なのです。定量表現から回避し、それをはじめから捨ててしまうのはあまりにも「もったいない」話だと思います。

技術者は展開が早くますます先の読みにくい時代だからこそ輝ける場面が多くあります。その一つが技術的な情報を基軸とした情報発信です。これはマーケティングはもちろん、最終的には技術の新規テーマ創出にもつながる重要なアクションです。そこに立ちはだかるのは技術者が苦手とする「他との比較と自らの強み」「定量的な表現を中心とした理解しやすい情報の整備」という2点を徹底させることにあります。

今までのような営業職の方は営業だけをやればいい、技術職は技術だけを知っていればいいという時代ではありません。それぞれの強みを生かしながら活躍の範囲を広げていくことで、潜在的な市場ニーズを吸い上げ、そこに自社の技術的な強みを持って解決を提案するという、地道な歩みこそが企業の維持発展と生き残りの基礎になると考えます。ご参考になれば幸いです。

 

◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。

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