需要増が継続 ボックス・ラック、5G・都市再開発けん引、PVも安定

電気、電子機器収納用のボックス・キャビネット・ラック・ケースなどの筐体は、情報化時代の中にあって社会インフラ全体を支える地味ながら重要な役割を果たしている。

特にIoTの活用を大きく進める5G通信の本格普及に向けて携帯電話の通信基地局、データセンターなどを中心に需要増が継続している。また、PV(太陽光発電)向けの接続箱需要、都市再開発に伴うビルや鉄道、道路、商業施設などでの受配電盤や分電盤なども安定した市場を形成している。

特需として、学校の熱中症対策としてエアコンの設置が2019年、20年の2年間にわたって行われたことで筐体の需要増にも大きく貢献した。技術面では、熱や地震対策、軽量化、省施工、防塵・防水性、セキュリティ性向上などを目指した開発が進んでいる。

 

カギは耐振性、熱対策

ボックス・ラックなどの筐体は、電気の受配電機器の収納や機械の制御機器の収納をはじめ、電子機器やコンピュータ・サーバーなどの収納などを行い、内部機器の保護する役割を果たしている。

ボックス・キャビネット・ラック・ケースなどの筐体機器の材質は大別すると、金属製とプラスチック製があり、特にプラスチック製のボックスは、金属製キャビネット・ボックスに比べ、電波透過性に優れているため、ブロードバンド用通信機器・無線LANアクセスポイントや、再生可能エネルギー発電設備、商業施設などを防犯・監視する監視カメラシステムなどの収納が可能で需要が増えている。

技術的なポイントである地震対策では、耐震・免震などが強化されている。耐震性向上は容易な地震対策の一つで、地震の揺れに耐え、構造物の倒壊を防ぐ。耐震対策を施したラックは強固で倒壊する心配はないが、地震時の機器への負担が一般的に大きくなり、機能保護には対応していない。免震は構造物と設置面の間にベアリングやすべり材を設置し、構造物に直接揺れを伝えないという特徴を持つ。

 

筐体内の温度上昇は、内蔵の電子機器・装置の寿命を短くするばかりでなく誤動作を引き起こす原因になっており、温度上昇によるトラブルを未然に防ぐルーバー、熱交換器、ファン、クーラーなどの熱対策機器が不可欠となる。

これらの熱対策機器はそれぞれに特徴があり、用途に応じて使い分けされている。同時に、筐体内の温度上昇を抑えるため扉に無数の穴を空けて排熱性の向上を図ったり、熱がうまく排熱されるような構造設計も進んでいる。

中でもデータセンターは、サーバーやスイッチングハブなどの通信機器から排出される熱が多いことから、収納ラック・キャビネット内は非常に高温になりやすい。このため筐体だけでなく、室内全体の温度管理を行っている。昨今の電子機器からの放熱は高温傾向であることから、水冷式の採用も増えている。また、単に冷却するだけでなく、吸気・排気の方法を工夫することで、効率的な熱対策による省エネ化を進める取り組みも著しい。

 

CADと連携した筐体加工進む

ボックス・ラックの市場をここ数年牽引しているPV用の接続箱は、一時に比べると落ち着きを見せているが、まだ建設着工されていないPV案件も多く、今後も継続した需要が見込まれている。

接続箱は屋外に設置されることが多いため、雨や雪、風に耐えられるように防水と防錆処理が施され、さらに内部温度が上昇して火災などに耐えられる材質も求められる。防錆や保護構造に優れた、プラスチック製の接続箱も耐久性に強いことから採用が増えている。

市場のグローバル化が進む中で、筐体の国際標準化対応も重要だ。

 

制御盤などは機械装置などと一体で輸出され、また海外生産が増加するなかで、生産設備や工場全体が国際標準に合わせた対応が必要になっている。

筐体も、UL、TUV、CEマーキングといった規格に対応してきており、例えばULのUL50、UL50Eでは、難燃性・防食性・結氷・防塵防水性などの性能が要求され、使用環境に合わせた厳しい性能評価を行う必要がある。米国では、耐震試験・静荷重試験・環境試験によって情報通信設備を評価しており、NEBS規格が重要な評価基準の一つとなっている。

また、品質対策では、コンセプト設計の段階から、工学的手法による解析をコンピュータで支援するCAE解析などの最新の設計ツールを使い、世界基準・業界標準となりえる高性能・高機能の製品設計を行う必要がある。こうして開発された製品は多様な試験・研究設備による検証でさらに高い品質・安全性が確保される。

 

強度解析は、キャビネットの強度を評価、熱解析ではキャビネット内部の温度を評価する。流体解析では強風によりキャビネットに加わる圧力と周囲の気流状態を評価する。

短絡性能評価とは、短絡事故時に流れる大電力を模擬し、ブレーカの遮断性能や配電盤の電路への影響を確認する試験。配電系統で短絡や地絡事故が発生した場合、ブレーカで電路を保護し、他の電路に事故が波及しないようにする必要があるため、短絡性能が評価される。

防塵性能評価とは、IEC60529に規定されているエンクロージャ(外郭)の防塵性を確認する試験。キャビネットが受ける塵埃の影響を模擬し、内部に搭載した機器の動作を阻害するような塵埃の侵入がないことを確認する。

 

防水性能評価とは、IEC60529に規定されているエンクロージャ(外郭)の防水性を確認する試験。キャビネットは使用環境によってさまざまな浸水リスクにさらされるので、防水試験ではキャビネットが受ける水の影響を模擬し、内部に搭載した機器に対して有害な水の浸入がないことを確認する。

その他、①低温・高温・高湿など、さまざまな環境を作り出し、製品性能の評価を行う環境試験 ②急激な温度変化を繰り返し、製品の耐久性の評価を行うヒートショック試験 ③塩水が噴霧されている槽内に試験片を設置して腐食の評価を行う塩水噴霧試験 ④塩水噴霧・乾燥・湿潤の各工程を繰り返し、屋外の環境に近い状況で腐食の評価を行う複合サイクル試験 ⑤紫外線を照射し、樹脂材料の劣化の評価を行う促進耐候性試験-などで各メーカーは品質の向上に努めている。

 

産業界全体で人手不足が続く中で、筐体の設計・加工においても対応策が進んでいる。コンピュータシステムと連携し、筐体の折り曲げ、穴加工などを自動化することは一般化しつつある。また、制御盤などの内蔵される機器が多種多様で数量も多いところでは、筐体の設計から内蔵機器の選択までをCADを駆使した取り組みが増えている。

内蔵する機器の選択にあたっては、CADメーカーの用意した部品ライブラリをクラウド上で活用できる提案も行われ、配線用ケーブルの加工作業指示も可能なシステムも登場している。同時に内蔵の部品も省人化につながる設計構造にすることで、省力化対策に効果を上げつつある。

ボックス・キャビネット・ラック・ケースなどの筐体市場の今後の需要として期待されるのは、鉄道関連のスマートグリッド運用、公共施設における災害時の通信手段の確保や観光情報の配信を目的とする公衆無線LANシステムの設置、燃料電池自動車(FCV)、電気自動車(EV)の充電ステーションや水素充電ステーション設置時におけるボックス・キャビネット、宅配業界における再配達の手間を省く手段として注目されている事業所、戸建て、集合住宅向けの宅配ロッカー・宅配ラック・宅配ボックスなどがある。

 

将来需要に向け生産体制強化へ

IoT、AI、ロボットなどが浸透する中、IT機器、インターネット、LAN、CATVなどに用いられる通信機器を収納するためのシステムラックがデータセンター・サーバールームなどで大量に導入が進んでいる。

HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)と連携して家中のエネルギーの「見える化」を進める通信計測ユニット用のボックス、地震時の防災機能を高めた感震リレー付ホーム分電盤関連のボックスも注目されている。新築住宅や既存の住宅にも設置できるさまざまなタイプが用意され、一般家庭にも普及が進むと見られる。

筐体メーカーではこうした需要拡大を見据えて工場の新設やリニューアルに取り組むところも目立つ。地球温暖化などの異常気象に伴う災害発生も増えている。社会インフラを陰から支える筐体の需要は今後も増加しそうだ。

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