【提言】『ニューノーマル工場(非対面式製造モデル)』に向かって【コロナ禍が教える日本のものづくり課題】(その1)〜日本の製造業再起動に向けて(64)

パラダイムシフトとは、認識や価値観が劇的に変化することをいう。コロナ禍により、われわれは経験したことのない劇的なパラダイムシフトの渦中にあり、中小製造業にも容赦無くパラダイムシフトの嵐が吹き荒れている。

何百年・何千年も前から、人々は寄り添い、語り合い、共に時間と場所を共有し、楽しむことで社会生活が成り立ってきた。日常の生活も仕事も、スポーツや祭りも、数多くのイベントも人々の群れなしでは語れない。もちろん、中小製造業のものづくり現場も同様である。

ところが、コロナ禍によるパラダイムシフトは、人との接近が危険とされ、ソーシャルディスタンスやテレワーク要請が新常識となってしまったが感がある。ソーシャルディスタンスの継続は人々の精神を破壊し、常に人への警戒心を植え付ける異常社会の創出である。コロナ禍の過剰な感染警戒に反発を覚える人も多く、多くの工場関係者も『製造業では無理だ!』と考えている。

無理とは言っても、新しいパラダイムシフトによる社会環境の中で、新しいものづくり様式の「ニューノーマル工場(非対面式製造モデル)」の構築による、さらなるイノベーションは必須であり、感染を防止し、かつ生産性向上を実現するニューノーマル工場に向かう方策を検討しながら実行しなければならない。今回からしばらくこの点に焦点を当て、深掘りして連載したい。

 

連載その1は『コロナ禍が教える日本のものづくり課題』と題し、日本のものづくりを分析する。ニューノーマル社会での留意すべきポイントは、3密への警戒であるが、残念ながら日本のものづくりは、大手製造業から中小企業・町工場に至るまで、歴史的に『群れ合いものづくり』で成り立っている。群れ合いものづくりは感染脅威の象徴であり、大きな課題である。慣習的に当たり前となっていることが、非効率な構造的課題であることをコロナ禍が教えてくれた。

群れ合いものづくりの代表例は、大手製造業を頂点とする「系列」と、「インテグラル(摺り合わせ)型」と称する日本のものづくりの慣習である。系列とは日本特有なピラミッド組織であり、大手を頂点とする中小企業との間で、相互依存・共存共栄の連携を行う「垂直統合」と呼ばれている。欧米で使われる1次サプライヤー(ティア1)、2次サプライヤー(ティア2)とは意味が違う。系列による日本のものづくりでは、緻密な意思伝達のために寄り添って過剰な打ち合わせが再三に渡って行われる。〇〇協力会など参加企業が系列として認められ、会合も盛んで、協調と団結に時間と金を使って群れを維持する『群の象徴』である。
 
また、日本のものづくりは「インテグラル型」と呼ばれ、金属加工・樹脂加工・電気電子・ソフト・センサなどさまざまな専門技術者による密な打ち合わせが繰り返され、日本独特の高品質・高機能商品を創り出すのが特徴で、世界標準の「モジュラー(組み合わせ)型」とは一線を画している。モジュラー型とは、パソコンや携帯電話などに代表されるものづくりであり、標準化された部品の組み合わせによって製品を完成させる方法である。日本はモジュラー型が不得意であり、中国や韓国にボロ負けし、日本のものづくりは依然として摺り合わせ型に依存している。『群れの象徴』がここにも存在する。

 
 
中小製造業の製造現場でも、「摺り合わせ(すりあわせ)会議」が、随所に散見される。当社のよく知る精密板金工業では、朝礼に始まり、1日に10回から15回の現場打ち合わせが各所で発生している。CAD/CAMのオペレータが展開図作成の際に、現場(曲げや溶接)のノウハウを必要とし、図面を持って曲げベテランや溶接のベテランに相談する姿など、3密の打ち合わせは今まで何の不思議のない事であったが、意外にも生産性を落としている大きな要素でもある。

前述のように、日本のものづくり遺伝子には、群れと3密があり、感染危機の観点に加え、ムダ排除の観点からも改善すべき重要課題として浮き彫りになっている。米国や中国では、ロックダウンをきっかけに、モジュラー型のものづくりを進化させ、非対面型のものづくりへの移行を急ピッチで進めている。モジュラー型のものづくりでは、非対面型への移行は容易で、事実、米国では受注の打ち合わせから技術検討に至る全てのプロセスをオンライン化し、非対面式での製造再起動が本格化し、製造業のV字回復を戦略的にもくろんでいる。

半面日本においては、大手製造業の遅れが顕著である。多くの企業が外部との対面打ち合わせを中止し、『打ち合わせ延期』『〇〇人以上の打ち合わせ禁止』などの通達により、ビジネスの凍結が精いっぱいで、非対面式ビジネスモデルへの移行には関心のない大手製造業が多いのが現状である。

 

コロナ禍パラダイムシフトで、歴史的な系列の慣習は消滅し、設計部門と製造部門を非対面で密につなぐデジタル垂直統合が台頭するであろう。中小製造業のニューノーマル工場とは、高度なデジタル化により、デジタル垂直統合に加え、従業員の非対面会話やテレワークを可能にし、RPA(ソフトウエア型ロボット)や人工知能(AI)により単純事務作業が自動化され、製造現場でも高度な自動化を実現した工場である。中小製造業がニューノーマル工場に移行することにより、第4次産業革命・デジタルトランスフォーメーション(DX)の本格始動が始まる。
 
コロナ禍によって日本のものづくりが古き体質から脱皮し、結果的にインダストリー4.0/IoTによる本物のつながる工場が実践されるとは、なんとも皮肉な話である。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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