【提言】工作機械メーカーの悲鳴 新型コロナで変わる精密板金業界〜日本の製造業再起動に向けて(62)

新型コロナ終息はいつなのか? 先の見えない状況に人々はおびえている。

当社(アルファTKG)は、東京・日本橋を拠点にインドで開発を行う『製造業向けのソフト』を扱う会社であるが、インド全土のロックダウンと日本の非常事態宣言をうけて、50人以上の社員がテレワークを行っている。インターネットの回線を駆使し、開発継続とテレビ会議を通じた組織活動を継続しており、あらためてインターネット回線のありがたさを痛感している。

幸い、当社サポートセンターがお客さまへの窓口として運営を継続しているので、ソフトのインストールから操作教育、そして新しいお客さまへのプレゼンテーションもオンラインで実施でき、業務への支障は最低限に抑えられている。非常事態宣言以降、都心のサービス業はショック死状態であるが、幸いなことに当社のお客さま(精密板金製造業)は現在でも忙しく稼働を続けており、コロナからの影響の少ない企業が多いことは幸いである。

 

当社では、精密板金製造業の実態調査を行った。当社のお客さまなど知り合いの企業を厳選し、従業員20人から150人までの企業約100社を電話で聞き取り調査したが、意外なことに4月までに仕事が激減した企業は20%にとどまっている。しかし、5月以降の先行き見通しに不安感を覚える経営者は90%を超え、経験したことのない不況感が漂っているが、この際に『デジタル化によるイノベーション』を推進しようとする企業が多いことを(実態調査を通じ)知ることができた。

多くのお客さまは、コロナが終息しても世界が昔に戻ると思ってはいない。コロナ終息後に、急速なV字回復で成長軌道を描くために、『イノベーションが重要。いまこそデジタル化/IoT化の実現だ!』との考えを持っている。ある経営者はこう話している。『コロナ発生前、私は出張が多く工場にほとんど居なかったが、今は毎日、工場で社員と一緒にいる。いまこそ自分が先頭になってデジタル化やIoT化を進め、社員の意識を変革する絶好の機会がやってきた』。このお客さまは言葉通り、急速なITイノベーションを推進している。

多くのお客さまがITイノベーションを進めようとしていることは、補助金の申請からも推察できる。2020年3月末を締め切りに、政府が突然募集を開始した『IT導入補助金』もその申請期間が2週間程度であったにもかかわらず、当社が申請をお手伝いしたお客さまの数は昨年度の2倍以上となった。大型の機械設備の導入を凍結する半面で、デジタル化やIoT化の導入意識が急増している。

 

日本の精密板金業界は中小製造業の代表的業種であり、日本全国津々浦々に2万社の企業が存在する。全国に緊急事態宣言が発出され、サービス業を中心に休業が相次ぎ、大手製造業の代表格であるトヨタ自動車も一斉休業に入る中にあって、精密板金業界はおおむね順調と言える。

しかし、精密板金業界の中でも、工作機械メーカーや建設機械メーカーの仕事を請け負う企業の受注が急降下しているのは特筆すべき異常事態である。この状況を分析するために、工作機械メーカーの受注の現状に目を転ずると恐ろしい事実が見えてくる。一言で表現すれば『真っ暗闇』。世界を代表する日本の工作機械を買う国がない。日本の工作機械メーカーの工場が順調稼働をしているのは、意外なことに中国だけである。『武漢ロックダウンが功を奏し、コロナは終息した』との報道を疑問視する声は多いが、事実中国では工場が稼働しており、操業度もコロナ以前より増えていると聞く。

日本メーカーの現地工場も中国向け製造で忙しい。中国では、コロナ終息後の新たな『地産地消』の動きがでており、国産メーカーも力をつけ、急速なV字回復をしている。工作機械メーカーにとって、コロナ以前からの米中貿易摩擦の影響による需要減は織り込み済みであったが、日米の需要低迷は想定外に深刻である。米国・欧州の主力工場や中小製造業も操業停止。インドやアジア主要国もロックダウンで操業停止。売るところがないのが現実であるが、中国依存は決して安心できない。コロナ以前より貿易戦争状態であった米中は、コロナをきっかけにさらなる戦争状態に突入する。コロナ終息後、米国は中国からの撤退を強めるのは明白である。

 

日本政府も3月5日に、安倍首相が生産拠点を中国から日本に戻す方針を表明している。サプライチェーンの多様化は、かねてより『チャイナプラスワン』の掛け声で顕在化していたが、これから起きる『中国撤退』はそんな半端なものではなく、国家の生き残り戦略として日本政府が本腰を入れて推進する戦略である。いまは苦難の続く工作機械メーカーも、チャイナドリームの終焉をきっかけにグローバル戦略を見直し、日本に錨を下ろして新たなる発展を模索する時が来ることを信じている。

コロナによってグローバル社会が完全崩壊したことは明白であるが、幸いなことに内需依存の日本には(やり方次第では)大きなチャンスが待っている。コロナ終息後、内需の大きい日本は、日本人の古来の労働遺伝子によって製造王国の復権が大いに期待できる。

中小製造業の戦略は、地域社会に依存する日本人の遺伝子を再確認し、経営者と社員とが一体となって(世界中どこにもできない)ボトムアップ・イノベーションを構築することである。

かつて叫ばれたインダストリー4.0を現実的に実現できるのは『日本の中小製造業だけ』と断言できる。今年は、IT導入補助金などを政府が潤沢に用意している。これらの制度を最大限に活用し、コロナ終息後のV字回復の準備を進めなければならない。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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