オムロン、品川にFA・自動化の支援施設ATC-TOKO開設 その狙いと日本のFA・IoT最新事情を探る

オムロンは1月22日、東京品川に、ものづくり企業の生産工程の自動化や効率化、スマートファクトリーへの取り組みを支援するための中核拠点「オートメーションセンターTOKYO(ATC-TOKYO)」と「オートメーションセンター TOKYO POC LAB(POC-TOKYO)」をオープンした。20万点にわたる制御コンポーネンツとロボット、AI、IoTを組み合わせて、最先端の制御技術と未来の製造現場、スマートファクトリーの姿を再現し、ものづくり企業が見て、学び、触り、考え、相談し、実践するまでの「場」と「技術」を提供し、彼らの取り組みを一貫してサポートする。

ATC-TOKYO概要

 ATCは、自社製品の性能向上や工場の生産性向上を行いたいものづくり企業が、オムロンが提唱するFAコンセプト「i-Automation」を実際に見て体験できる施設として2011年から世界に展開している。今回の東京で37カ所目となる。国内では九州と草津、刈谷に続く4カ所目。

 単体の製品を並べて見てもらうだけのショールームや展示会とは異なり、同社の制御・安全コンポーネンツとドライブ機器、制御ソフトウェアを駆使し、1つのアプリケーションとして仕上げたものを展示。新しい制御、生産現場の革新に向けた「ソリューション」として提案している。例えば、振動レスの高速搬送、常にピンと張ったままのロールtoロール制御、高速ワークの無停止画像検査、AIを使った予知保全など、装置や現場にそのまま導入できる一歩手前まで作り込んだ状態のアプリケーションが並ぶ。
 これを参考、ベースとすることで、機器選びや制御ソフトウェア開発を一からやる必要がなく、工数とコストを省け、設計開発者にはありがたいものが沢山ある

 さらに、見学した後にじっくり話し込めるスペースを用意。来場者が抱えている現場の課題やなりたい工場の姿、先進的ソリューションを見ての感想、自動化やIoT化、ロボット導入、AI活用といった業界トレンドまで、同社の営業や技術者とざっくばらんに意見交換ができるようになっている。
 近隣には、実際に取り組もうと活動を始めた企業を支援するラボ「POC-TOKYO」も開設。機器や装置、ロボットが一通り揃い、装置やワークを持ち込んでの実証や検証ができる専用施設で、ATCでアプリケーションを見た後、実際に自社でも取り組んでみようとなった企業に対して個室を提供し、共同開発が行えるようになっている。

高度な制御・知能化・人との共存の3つのテーマに沿って組み上げたアプリケーションデモ機を多数展示

ATCの役割とは?

 一言で言えば、もっと生産性の高い装置や機械を作りたいメーカー、自社工場のスマート化を進めたいものづくり企業の支援と共同開発と、それによる自社製品の拡販。
 製造装置や機械の性能向上や制御の高度化は、すでにコンポーネンツ単体の交換では実現できない領域にある。またIoTやAIなど新しい技術を取り入れて、予知保全のような付加価値を付けようとしたら技術はもっと複雑になり、時間も手間もかかる。さらに、装置からライン、工場全体でまとめてスマートファクトリーを構築しようと思ったら、何から始めればいいのか分からないレベルまで難しい。これらを一括して実現できる、相談できるプレイヤーは世界でも決して多くなく、IoTやロボット、スマートファクトリーの普及スピードがなかなか上がらないのはここに原因がある。

 それに対しオムロンは、制御コンポーネンツ、センサ、コントローラ、ドライブ、ロボット、安全(セーフティ)まで最適制御に必要な技術要素と製品をすべてカバーしている。社内にはそれらの専門人材が多く在籍し、自社もスマートファクトリー化を進めている、世界でも稀有な存在だ。制御機器メーカーであり、ロボットシステムインテグレーター、ラインビルダーでもあり、相談役としては適任。そうした強みでもって、ものづくり企業の課題解決と未来への設備投資の一歩踏み出すきっかけをつくり、ソリューションビジネスと機器拡販につなげるのがATCの役割であり使命だ。

東京に開設する意味

 ATCは世界では37カ所あり、各国・エリアの販売本社以外にも自動車や電子機器、半導体など産業集積地に設置されているケースが多い。国内3カ所のATCも、同社主力工場の草津工場内にあるATC草津(滋賀県)、東海地域の自動車産業向けのATC刈谷(愛知県)、ATC九州(福岡県)の3カ所だ。同社の本社がある京都にも開設していない。なぜこのタイミングで東京なのか?

 理由のひとつは、トップダウンによる国内ビジネスの拡大。地方や海外には工場を展開しているが、本社は東京にあり、決定権者である経営層は東京にいるという企業は多い。従来の延長線上で製造装置や生産ラインをいじるのであれば現場や工場の領域だが、IoTやロボット、AI、データ活用なども含めたデジタル化へのチャレンジは経営判断になりやすい。ATC-TOKYOは経営者に未来の工場、ものづくりの姿を見せることができ、トップダウンの提案に威力を発揮する。
 もうひとつが、海外のものづくり企業の誘致。東京には毎日、世界中から人が集まり、近年はそれが加速している。ATC-TOKYOは、国内はもちろん、ASEANや中国を中心とした

アジアのものづくり企業も来訪しやすい立地にある。現地では難しい案件も東京でカバーするといったことも視野に入れている。
 さらには、ATC-TOKYOは世界のATCの中で最も規模が大きく、設備も充実している。そのため中核拠点として世界のATCをつなげる役割も期待されている。各地のATCには日々、ものづくり企業の課題やノウハウが蓄積されていっている。ATC-TOKYOはそれらを1カ所に集めて分析し、標準化して製品やソリューションに落とし込んで横展開につなげるという責務も担っている。

 同社FA事業を統括する宮永裕執行役員副社長 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長は「ATC-TOKYOはセンターオブセンター、センターのなかのセンターの位置づけ。東京は世界に対して開かれた都市であり、世界中から人と情報を集めることができる。また東京にあることで東京本社の経営層に見てもらいやすい。世界のATCでは、はじめは現場の人達が来ることが多かったが、技術が進化するにしたがって経営者が来ることが増えてきた。経営層も来られるようにすることで、経営層からミドル層、現場まで、つながりが深まり、組織を挙げた取り組みもできるようになる。いい意味での好循環ができるようになる」としている。

都内にいる経営者と世界から多くの人に来て欲しいとする宮永裕執行役員副社長 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長

ATC-TOKYO開設から見えてくること

 制御技術が高度化し、加えてIoTなど情報系の技術も入ってくるなかで、製造業、特に製造装置やライン構築、製造機械に付加価値を付け、高い生産性を実現するには、最適なコンポーネンツを選び、つなぎ、ソフトウェアで統合して制御する技術が必要となる。それはいわゆる機器やソフトの単品販売ではなく、市場や顧客の要望や用途に応じたアプリケーションシステムを組んで納品するシステムインテグレーションだ。
 近年は、FA機器メーカーをはじめ、商社・販売代理店やエンジニアリング会社、設備屋、ロボットシステムインテグレータ、さらには製造業や産業向けIoT・AIサービスを開発・提供しているIT系企業も、いわゆる「ソリューション」と言われるこの領域に力を入れている。

 特にオムロンは、2015年にアメリカのロボットメーカーAdeptTechnologyを買収して以降、「ILOR+S」と表現する業界随一の機器コンポーネンツの品揃えの幅広さを活かし、この領域に注力している。IはInputで各種センサやHMI、LはLogicでPLCや産業用コンピュータ、ネットワーク機器、OはOutputでリレーやインバータ、サーボモータ、RはRoboticsでロボット、SはSafetyで安全機器で、装置や機械、生産ラインの中核をなす要素技術を開発・製造・販売し、さらには自社でも使用している。社内に蓄積したそのノウハウとアプリケーションを外販し、本丸である機器販売のベースを上げる相乗効果を狙っているのが見て取れる。

 「もの売りからこと売り」へと言われるなか、製造業、特にFA業界の主戦場は機器販売からアプリケーション提案へと移ってきている。これからはシステム構築力、いわゆるインテグレーションが問われる時代。最適な装置や工程、ライン、工場をつくる装置設計やラインビルダー、ファクトリービルダーが活躍する時代の到来が感じられる。

POC-TOKYOにはデモラインも構築してある

 もうひとつが、製造業のIoTやデジタル化の導入実践が思いのほか進んでいない状況と、その解決策として経営層に見せてトップダウンを推進した方が進めやすいという事実。
 IoTの現場活用が叫ばれて数年が経つが、本格導入に至ったのはごく一部。まだ現場レベルでの検討やPOCがほとんどだ。これまでに展示会等でも盛んにPRされてきて、簡単にIoT的な製品やサービスも多く販売されているが、実際は売り手主体でまだまだの様子。日本のIoTやデジタル化の現状は、顧客に寄り添いながら手取り足取り丁寧にやっていくことが求められている段階であることが分かる。

 また、これまでIoTの担い手は現場で、現場改善の延長線上、部分最適でIoTが進められてきた。しかしIoTは現場だけでなく、会社のデジタルトランスフォーメーション、デジタル化やデジタル変革の一貫であり、経営層にもその認識が浸透している。POCから本格導入に進むには経営判断が必要となる。そうしたなかでは企業のトップに見てもらうのが一番近道となる。東京・品川という好立地に立て、経営層に見てもらいたいというメッセージは明確だ、

 遅々として進まない、担い手がいない、設備投資の費用がないなど、色々言われているが、日本のIOTも前進している事がわかる。IoTやデジタル化ビジネスの拡大にはもう一段進んだ取り組みが必要だ。その意味ではATC-TOKYOはいい参考例になりそうだ。

ATC-TOKYO・POC-TOKYOの内部公開

最新のFA・自動化アプリケーションを提案する施設「ATC-TOKYO」と、それを実証・実験する施設「POC-TOKYO」の施設内はどうなっているのか。一部紹介する。

ATC-TOKYO(東京都港区港南1-18-23 Shinagawa HEART 3階)は、品川駅から徒歩5分程度、HEART3階にある。1100㎡のワンフロアに最先端の製造工場を再現している。受付、展示室、ミーティングルームを備えており、一連の設備の見学から打ち合わせまでの一連の流れでだいたい3時間くらいとしている。展示エリアには、制御コンポーネンツとロボット、ソフトウェアでシステム化したアプリケーションデモ機を多数展示している。製品単体の展示は一つもない。

白を基調に、先進工場の入口をイメージした受付
i-Automationに合わせ、展示エリアは制御と知能化、人と共存の3つ
振動制御アプリケーション
レーザー発振器とメカ機構の高速同期制御アプリケーション
ゆがみのない画像処理アプリケーションデモなどあシステム化したアプリケーションを多数展示
目玉の一つであるロボットとAMR、自動機を使ったフレキシブルライン
ロボットと人が並んだ状態で部品をピッキング。作業エリアはセンサで区切り
ピッキング・組み立て状況に応じてロボットが自ら判断して倉庫エリアから部品を補充
AMR(モバイルロボット)で部品を自動機に搬送。自動機で組み立て
組み立て後はレーザーマーカーに運び、印字して完成

POC-TOKYO(品川区東品川1-4-8 日本通運東品川流通センタービル)は、ATC-TOKYOで最新の制御や自動化、スマートものづくりの技術を見て、実際のワークや装置を作りたいと一歩踏み出した企業と一緒になって共同で実証・実験をするための施設。自動機や生産ラインの構築、ロボット活用をしたい企業向けの「R」部屋が9室、基板検査や寸法検査の検査装置を備えた「D」部屋が11室あり、いずれも個室で機密情報を守りながら開発が行えるようになっている。また創造力を働かせるためのリフレッシュルームや打ち合わせのためのセミナールームも備えている。

内装はコンクリート打ちっぱなしで秘密基地的な雰囲気
R室ではロボットが設置してあり、実際のワークを使った実験も可能
D室は高精度の検査装置を設置。自動運転など自動化・電子化によって安全性・信頼性が求められるニーズに対応
リラックスできる部屋も完備
ワークや装置搬入に便利な業務用エレベータを完備

ATC TOKYO、POC-TOKYOは展示会の時にしか見られないようなアプリケーションシステムが多数あり、混雑する展示会では絶対できないような対話や情報交換ができる。都内や近郊にもショウルームやテクニカルセンターはたくさんあるが、そのなかでも設備と機能の充実さはさすがとしか言いようがない。一見の価値ある施設だ。
ちなみに、見学やテストの予約申込みは同社へ直接連絡して欲しいとしている。

参考:オムロン、製造業を革新するFA技術の旗艦拠点 世界最大の「オートメーションセンタ TOKYO」を東京・品川にグランドオープン

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