2019年「後継者不在率」東京商工リサーチ調査、製造業は48.3%

東京商工リサーチの調査によると、中小企業で後継者が決まっていない「後継者不在率」は55.6%と、半数以上の企業に及ぶことが分かった。代表者の年齢別では、60代が40.9%、70代が29.3%、80代が23.8%で、代表者の高齢化が後継者難に拍車をかけている状況も浮かび上がった。

産業別では、人手不足の影響が深刻な労働集約型の「サービス業他」「小売業」などで後継者不在率が高かった。この状況が続くと、新設法人数が減少している「小売業」は衰退し、国内市場の拡大と健全な競争環境の維持に影響を与えかねない。

2018年の「休廃業・解散」企業数は過去最多の4万6,724社を記録した。円滑な事業承継は数年の準備期間が必要とされる。高齢の代表者で後継者が決まらない場合、企業の事業継続だけでなく、日本を支える中小企業の存続が危ぶまれる可能性も出てくる。当面、経営者の高齢化や生産年齢人口の減少に歯止めがかからないだけに、持続的な経済成長の維持には事業譲渡やM&Aを含む「事業承継」の促進が一段と求められる。

 

産業別 10産業中8産業で後継者不在率が50%超

産業別の「後継者不在率」は、情報通信業が74.1%で最も高かった。ソフトウェア開発などIT関連業種が含まれるため、業歴が浅い企業が多く、代表者の年齢も比較的若いことが影響しているとみられる。

人手不足による影響が深刻な業種では、小売業が59.3%、建設業は54.9%、運輸業は52.2%だった。全産業平均は55.6%で、ほぼ全てで後継者難が進んでいるようだ。

一方、製造業は48.3%と全産業で最も低かった。不在率が50%を切ったのは、製造業と農・林・漁・鉱業(不在率48.9%)の2産業のみ。国内企業の半数以上で後継者が決まっていない。

 

事業承継 「同族承継」が約7割

後継者「有り」の企業8万4,579社のうち、同族への承継を予定している企業は5万7,187社(構成比67.6%)で約7割を占めた。

経済産業省・各経済産業局が「事業承継引継ぎ支援センター」を開設(運営は各自治体)した他、民間のM&A仲介が活発に展開しているが、親族への承継が大半を占めることが鮮明になった。

次いで、従業員へ承継する「内部昇進」が1万5,006社(同17.7%)、社外の人材に承継する「外部招聘」が1万2,156社(同14.3%)で、いずれも20%を割り込んだ。

 

「後継者不在」企業 「検討中」が過半数

「後継者不在」の10万5,942社を対象に、中長期的な承継希望を尋ねると、「未定・検討中」が5万8,772社(構成比55.4%)で半数を超えた。まだ、現場では事業承継への方針すら明確でない、あるいは計画できない企業が多いことがわかった。

「会社を売却・譲渡」は215社(同0.2%)、「外部からの人材招聘と資本受入」は145社(同0.1%)にとどまった。事業承継の相手が、親族や従業員以外の場合、頭では理解できているとしても、経営や資本受け入れ(売却)への抵抗がかなり根強いことがうかがえる。

 

代表年齢 80歳以上でも4社に1社が後継者不在

代表者の年齢別で見ると、最も高いのは30歳未満の92.91%だった。創業や事業承継から日が浅く、後継者を選定する必要に迫られていないため、不在率が高くなった。

50代までは不在率が「後継者有り」を上回るが、60代以降は逆転する。だが、80歳以上の不在率は23.8%に上っている。事業承継の準備期間を加味すると、早急な対応策を迫られる企業が多いことを意味している。

 

業種別ワースト(高い)はIT関連、ベストは金融、インフラが目立つ

業種別で「後継者不在率」をみると、最も高かった(ワースト)のは、インターネット付随サービス業の89.7%だった。このほか上位の10位に、通信業や情報サービス業、インターネット通販などの無店舗小売業などが並んだ。これら業種は、ビジネスモデルの成長に加え、代表者の年齢が比較的若いことが影響しているとみられる。

一方、下位は信用組合などが含まれる協同組織金融業の24.1%だった。そのほか、熱供給業や銀行業、ガス業、鉄道業などが揃い、金融や社会インフラ系を担う企業がランクインした。

 

都道府県別 地域によって大きな開き

「後継者不在率」が最も高かったのは、神奈川県の72.2%。次いで、東京都の68.0%と毎年企業が多く設立される大都市ほど、後継者の不在率が高かった。

一方、最も低かったのは佐賀県の19.2%。一部エリアは福岡経済圏に属し、福岡県のベッドタウン機能も果たしており、代表者の子息が独立して福岡で住み、その後「Uターンで家業を継ぐケースが多い」との声もある。

 

日本の中小企業の「後継者不在率」は55.6%と半数を超えた。代表者の年齢が50代までは後継者の必要性は低く、後継者不在率と年齢が反比例している。だが、事業承継が深刻さを増す60代では40.9%、70代は29.3%、80代は23.8%と、代表者が高齢でも後継者がいない実態も浮かび上がった。

中小企業白書(2017年版)によると、後継者の選定から了解を得るまでに要する期間は承継準備が不十分な場合、「3年以上」が過半数に達する。事業承継には長い期間が必要で、高齢になるほど時間的猶予は短くなる。

また、後継者が決まっていない場合、代表者の急病や死去などで事業継続が困難なケースも起き得る。こうなると取引先や労働者は予期せぬ形で販路や外注先、勤務先を失いかねない。休廃業の決断の遅れは、デューデリジェンス(資産査定)の結果次第で債務超過に転落、倒産に移行しやすい。また、金融機関では担保(保全)不足で信用コストの上昇を招くケースが想定される。後継者不在による休廃業・解散は、経済全体に悪影響を及ぼしかねない。

中小企業庁を中心に、事業承継税制の拡充や事業承継診断などプッシュ型の承継支援を矢継ぎ早に実施している。だが、生産年齢人口が減少し、先行き不透明な「後継者不在」企業への安易な支援は競争力を阻害しかねない。単なる事業承継ではなく、技術や産業の承継にも着目し、日本の強みである中小企業の技術力を引き継ぐ「事業承継」の在り方が問われている。

出典:東京商工リサーチ「2019年『後継者不在率』調査」

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