【提言】令和時代のパラダイムシフト『希少価値の変化…機械から人へ』〜日本の製造業再起動に向けて(52)

パラダイムシフトとは何か? これを理解するのは容易でないが、中小製造業を取り巻く環境を分析する上で、パラダイムシフトの考察は重要なポイントである。今回はこれをテーマに取り上げる。

まずはじめに、パラダイムシフトとはなにか?を簡単に解説したい。パラダイムシフトを理解する上で、まず皆さんの共通の概念を浮き彫りにする必要がある。

例えば、皆さんは今までに、食料が買えず餓死した人に会った事があるだろうか? 当然ではあるが、今の日本にそんな人がいないのは常識であり、人々は「食料は簡単に買える」という共通の価値観を保有している。今の日本では、食料品や電気・エネルギーなどは「誰でも手に入る商品」であり、このような一般的かつ汎用的な商品を「コモディティー商品」と呼ぶ。

半面で、特別仕様の高級車は、皆が買えないモノであり「希少価値の商品」である。今の時代を支配する「食料や電気があって当たり前」という共通の価値観が、将来どこかで突然変化する事をパラダイムシフトと呼ぶ。

例えば、ある日突然、地球規模の天候不良やエネルギー危機が訪れ、食料品やエネルギーが極端に不足し、これらの商品が入手困難となり「希少価値商品」になるかもしれない。また一方で、特別仕様の高級車には人々の関心が無くなり、車は単なる「コモディティー商品」になるかもしれない。パラダイムシフトとは、共通価値観の突然の変化であり、希少価値が突然消えてコモディティーになる現象である。

 

歴史をさかのぼると、社会の根底を変えてしまった大きなパラダイムシフトが起きている。150年前の日本での明治維新は、国際社会の大きなパラダイムシフトに強い影響を受けている。「薩長連合を勝利に導いた国際的パラダイムシフトが起きていた」と断言しても良い。この影響とは、米国南北戦争を舞台にした「武器と綿花」のパラダイムシフトである。

ご周知の通り、明治維新の数年前に、米国では南北戦争が勃発し4年間に亘る市民同士の戦闘で100万人に迫る犠牲者を出し、北軍勝利に終わった。米国の南北戦争は、歴史に残る「人類最初の本格的な近代兵器戦争」と記録されている。大英帝国から始まる産業革命により、機械が生まれ、労働生産性が大幅に向上(一説では、300倍の労働生産性向上があったと言われている)。武器の製造能力向上や機能の進化が続き、最新兵器の所有が戦争勝敗の決め手となっていった。戦争をやっている時には、最新兵器こそ最も重要な「希少価値商品」の代表であった。

それに反し、米国南部で栽培される綿花は、米国の重要な輸出品であるが、何の進化も希少価値もなく、奴隷を使って安く作るコモディティーであった。しかし、「武器は希少価値、綿花はコモディティー」という価値観が、突然崩壊する日がやってくる。それは、南北戦争終結の日であり、この日から突然パラダイムシフトが始まるのである。

戦争終了により、武器の需要は無くなり、国際的な武器価格は大暴落。半面、南部の綿花畑は荒廃し、奴隷もいなくなり、綿花の国際価格が暴騰し、綿花はいきなり「希少価値商品」となった。一夜にして「綿花が希少価値、武器がコモディティー」というパラダイムシフトを知っていたのは、琉球を傘下に持つ薩摩藩である。薩摩は、琉球の国際貿易を通じパラダイムシフトを正確に把握していたのである。国内の綿花を安く買い集め、国際市場で高額で売りさばき、暴落した最新兵器を徹底的に買い集めた「薩摩藩海外事業部?」のビジネス感覚には脱帽する。この密輸入の結果、薩摩藩は莫大な最新武器を保有し、これを背景に倒幕に成功するのである。

 

今回のテーマ「令和時代のパラダイムシフト」に話を戻し、中堅中小製造業の成長戦略に焦点を当てて見ると、明確なパラダイムシフトが見えてくる。

ほんの数十年の昔、日本の工場経営者の共通パラダイムは、「機械が希少価値」であった。「良い機械を買うこと」に人生をかけた経営者の夢が、共通概念として定着していた。昭和時代の工場経営者は、「良い機械を買うのだ!」との信念を持って、個人的に使うお金を制限し、最新鋭機械の購入に全財産をつぎ込み、巨額の借金と高い金利を背負う「経営者の夢に向かった命がけの挑戦」を行っていった。この共通概念によって日本の製造業は支えられていた。機械の所有に人生をかけた、昭和の経営者によって日本の製造業は発展したのである。

幸いにして、昭和の時代は高度成長による需要の拡大があり、「機械の導入によって生産性が大幅に向上した」時代である。誰よりも先に「良い機械を買った会社」はもうかり、繁栄を実現できたのも昭和の時代である。「勝ち組」と称される企業は、例外なく昭和の時代から継続的に「良い機械を買うこと」を実行してきた企業である。

 

令和の時代を迎え、明らかに「機械は希少価値」の概念は変化している。令和の時代の希少価値は「人」である。希少価値が「機械から人に」移行した。令和の時代のパラダイムシフトは「機械を希少価値とした概念から、人を希少価値とする概念」への変化であることは明白である。クラウドや人工知能など最新技術をフル活用し、人の能力向上と作業効率向上に投資することこそ令和の時代の勝ち残り戦略である。

機械をたくさんそろえ、機械に依存した「昭和の時代の経営」はすでに賞味期限が切れている。「希少価値の変化…機械から人へ」こそ令和時代の経営戦略の柱であろう。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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