【提言】先進国最低の『労働生産性』 効率の悪いエンジニアや事務職の実態〜日本の製造業再起動に向けて(34)

内閣府によれば、日本経済は「いざなぎ景気」を超え、戦後2番目の好景気を維持し、GDPも米国・中国に次ぐ世界第3位の経済大国である。しかし、OECD(経済協力開発機構)の発表によると、2016年の国民一人あたりのGDPは世界18位。労働生産性では、残念なことに世界22位、先進国最下位の不甲斐ない実態が報じられている。

労働生産性とは、就業者一人あたりのGDPであり、従業者一人あたりの稼ぎ高を意味する。日本が、先進国最下位ということは日本の就業者は、先進国で最も貧しいことを意味する。22位は、製造業にとってもショッキングな数字であり、また真摯(しんし)に受け止めなくてはならない事実である。

日本製造業には『5S』のポリシーが浸透し、自他ともに認める「ものづくり大国」であり、製造現場では高い生産性を誇っている。製造現場で働く社員のモラルも高く、技能技術に優れ、多くの製造業が集積する日本のものづくりは、世界をリードする生産性を持っているはずである。事実、アジアや中国の製造現場を視察すれば、日本の現場生産性には目をみはるものがあることにあらためて気がつくし、欧米の製造業と比較しても、日本はダントツである。

ではどこに、日本の労働生産性22位となる「非効率なものづくり」が存在するのだろうか? この原因をひもとく興味深いデータがある。このデータは、数年に渡り100社を超える中小製造業の実態を当社が調査した結果であり、偽りのない事実である。興味深いデータとは、中小製造業のムダ作業の分析データで、これによると『一日に1時間以上のムダ作業』が発見されている。現場工程での内段取りなどにもムダは発見されているが、欧米・アジアと比較して圧倒的に少なく、5Sが徹底した日本の製造現場の生産性は非常に高い。

ところが、いったん事務所やエンジニアリング室に目を転じると、思わぬムダの発見がある。このムダ作業とは、『図面や書類を探す時間』である。このムダ作業を累積すると、なんと一日に1時間以上、多いところでは数時間ものムダが生じている。中小製造業の効率の良い製造現場と比較して、日本の事務所やエンジニアリング室が非常に非効率であることが実証されている。なぜこのようなムダが生じるのか? 日本の労働環境を欧米と比較し、その真因を探っていきたい。

日本には、古来より終身雇用制の習慣があり、近年は大企業を中心に随分欧米化しているが、地方の中小製造業には終身雇用を頑固に守り続ける企業が非常に多い。経営者も創業者一族の世襲が多く、従業員は働く企業に家族のような親近感を持っており、一方経営者は従業員を深く信頼している。労働者を移民に依存し、時間給で雇用する欧米とは大違いである。この相違が、『情報は誰が管理するのか?』という経営判断に違いが生じる。従業員を信頼しない欧米では、『すべての情報は会社のもの』との価値観が常識である。

欧米の中小製造業でも、CAD/CAM見積もり、NCプログラム、工程表など膨大な情報が存在するが、全てのデータを会社のサーバーで管理し、誰でもわかりやすく探せる仕組みが必須である。欧米において、データの社有化と探すムダの排除は、すでに構築されている。半面、『従業員を信頼する』日本の中小製造業では、『情報は個人が管理すれば良い』という風習を育んできた。事実、日本の中小製造業を訪問すればわかることであるが、各担当者は優秀であり責任を持って仕事に挑む反面、どんな貴重なデータも担当者によって管理されているのが一般的である。

また、紙に記載されたデータも多く、例えば検査結果が紙の図面に直接書かれたり、加工の注意点やノウハウが図面に記載されたりしており、山のように積まれた図面の山から、それらの情報を取り出すことはほぼ不可能に近い状況も散見される。優秀なエンジニアによって行われる日本のものづくりも、探すという観点からその効率を測定すると『個人が優秀故に探すムダが生じる』といったマイナスが顕著に表われている。

日本の中小製造業の製造現場には、大きく分けて4種類の貴重な情報が存在する。4種類とは、①コンピュータデータ(CAD、CAM、生産管理データなど)②プリンタ出力のペーパー情報(製作指示書、段取り書など)③ペーパーに記載される保存情報(図面記載の検査結果、加工の注意点など)④加工のノウハウ情報(熟練工の知識、治具ノウハウなど)であり、これらの4種類の情報がバラバラに存在し、会社の社有化ができていないので、いったん探そうとしてもなかなか探せないのが現実である。

世間ではIoTが叫ばれ、なんでもインターネットにつながることが革命であると評しているが、日本の中小製造業が、真のデジタル変革を行うためには、現状のばらばらになった4種類の各種情報を社有化し、誰でも使える情報に変換しながら、情報の整理・整頓・すなわち『情報の5S化』を行うことが、まず最初に行うステップである。労働生産性22位の真因を知り、これに対応する解決策を講じることは、『災い転じて福となす』。まさに、中小製造業の未来を切り開く鍵であると確信する。a-tkg.comで具体的な解決案をご検討いただけたら幸いである。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)

株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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