産業用トランス 堅調に市場拡大 社会インフラ関連の需要増で小型・軽量・使いやすさ進展

国内外で活発な設備投資が行われる中で、産業用トランスの需要も堅調に推移している。工作機械、半導体製造装置や電子部品実装装置、各種ロボットなどが好調であることに加え、エレベーターやエスカレーターなどの社会インフラ関連の需要も拡大している。PV(太陽光発電)システムをはじめとした新エネルギー関連も、種々の課題を抱えながらも依然需要が継続してトランス需要を支えている。製品は軽量化、コンパクト化、使いやすさが一層進んでいる。構造的には簡単ながら、求められるニーズは多様化しているだけに、トランスメーカー各社はこうしたニーズに対応しながら市場拡大に向けて地道な努力を継続している。

■PVシステム需要継続
電圧や電流を変化・安定させるトランスは電気を使用する機器のほとんどで使用されている。特にロボット・工作機械、医療機器、発電関係、アミューズメントなどの産業機器、業務機器分野では、大型タイプから、受配電盤、電子機器・装置に組み込まれる小型タイプまで多種多様な機種が利用されている。

再生可能エネルギーの需要の広がりで、PVシステムや風力発電などの用途で新たな電源トランスの需要が創出されており、市場に活気を与えている。PVシステムのうち、メガソーラー発電は電力会社の電力送電事情や買い取り価格の低下なども絡み減少傾向となっているが、家庭用PVは安定した需要を継続しており、今後への期待も高い。

標準変圧器の市場は、経済産業省の機械統計によると、2014年の生産金額は828億円で、2年振りにプラスとなり前年比21・2%増と大きく伸長している。リーマンショック後では、14年が最大の生産額となっている。

■多様化するニーズに対応
テレビやパソコンといった民生機器用で同一製品を大量使用するトランスとは異なり、産業用トランスは一品一様となることが多い。トランスメーカー各社はこうした市場の動向に対し、標準トランスとしてカタログ品の充実に取り組んでいるが、現状は特注のカスタムメード品の比率は減少していない。搭載される機器に最適なスペックや形状、容量などを求めるユーザーニーズは依然強い。トランス専業メーカー各社はこうしたニーズに応えた改良・工夫を行うことで、新たな用途の創出と市場の拡大を図ろうとしている。巻き線工程から含浸・乾燥工程まで一貫生産ができる体制で、コストの低減と納期の短縮化を実現している。

為替の円安基調が続く中で、輸出環境は大きなプラス効果を生み出しているが、一方で原材料などの輸入環境にとってはマイナス面も生まれている。銅や鉄、樹脂類などの塊ともいえるトランスにとって、今後の動向によっては利益の減少につながることが予想される。

最近のトランスは軽量・コンパクト化に加え、接続方法の簡易化など作業性の向上、マルチタップ化、LEDによる通電表示などの工夫・改良が進んでいる。

取り付け作業の効率化を図るために、結線の作業性・信頼性の向上、デザイン面などの観点から結線部への端子台の採用が一般化している。タブ端子台を採用しねじを使わず、リセプタクル端子をタブに差し込むだけで結線が完了するタイプや、アップねじの採用でねじを緩めることなく丸型圧着端子の接続ができるタイプが主流となっており、結線作業の効率が大幅にアップしている。

■配線作業の省力化に効果
最近では、単線や棒端子を差し込むだけで結線が可能なプッシュイン式端子台を採用したトランスも増えてきており、配線作業の省力化に大きな効果を生み出している。

さらには、屋内配線用のビニル電線(IV線)でも、マイナスドライバーでばねを押して差し込むだけで結線が可能になっており、さらなる結線作業の効率化、時間短縮効果を生み出している。

また、マルチタップを採用した製品は、1次側(入力)とともに、2次側(出力)にもマルチタップを採用することで、1台のトランスで12種類の電圧に対応することができ、入出力の電圧変更が簡単に行える。

ねじアップ式端子台にLEDを搭載し、通電中はLEDが点灯し通電状態が一目で確認できるタイプも好評だ。

軽量・コンパクト化へ、絶縁紙の使用枚数を減らす工夫もされている。絶縁種別をB種、巻線仕様をノーレア方式にすることで、従来品と比べ20~40%の軽量化を実現。1kVAクラスの場合、約3キログラムの減量と、外形サイズで10~30%コンパクト化できる。環境面でも効果的が見込める。

そのほか、コイルの上下面の線輪間を完全に覆うことで、ホコリやごみ、湿気などからコイルを守り、絶縁不良の事故を防ぐ設計も行っている。

電圧や電流を変化・安定させる役割を果たしているトランスであるが、最近はさらに役割が増えている。

その一つが、ノイズ対策機能である。ノイズ対策にはノイズフィルタなどが使用されているが、トランスにノイズ対策機能を内蔵させることで、一石二鳥の役割を狙っている。コストやスペースなどでメリットが見込める。

■耐雷トランスに期待
もう一つが、雷対策用の耐雷トランスである。雷の発生が多い日本は、雷の及ぼす被害も目立つ。電子機器が増えている昨今、雷害対策の一環として耐雷トランスの需要も拡大している。PVシステムや風力発電などの普及も加わり、耐雷トランスへの期待も高まっている。

安全重視の観点から、焼損事故の再発を防止するため、自己保持型サーマルプロテクタを内蔵したトランスも注目されている。所定の動作温度に達すると、トランスや電源機器の電源が切れるまで接点を開放し続ける。

成型前のガラス繊維などに熱硬化性樹脂を染み込ませた、金型レスのプリプレグ方式のモールドトランスも伸長している。通常の乾式トランスに比べ、導電部の絶縁や保護に効果を発揮し、難燃性や耐湿性に優れる。金型レスのため、ユーザーが求める様々な容量・電圧に対応するトランスの製作も可能である。

トランスの技術を応用したリアクトルや給電システムなどが開発され、新たな市場を形成しつつある。特に、汎用インバータ用交流・直流リアクトルは、入力力率を改善するとともに高調波電流を阻止するもので、コンデンサの焼損を防止し、電流の脈動を平滑化させる機能があり、需要が拡大している。

高周波リアクトルは、小型でありながら低損失、低騒音で、電流特性に優れ、太陽光発電システムのパワーコンディショナ向けに需要が伸びている。PV分野以外にもUPS(無停電電源装置)や、バッテリチャージャー、各種のコンバータ/インバータや、各種の電源装置にも応用でき、今後のアプリケーション拡大に繋がるものと期待されている。

■進む省エネ・高効率化
今後の産業用トランスは、より一層の省エネ化・高効率化を図るため、鉄心や巻き線の材料の開発や、トランス自体の構造改良などが引き続き進むものとみられる。

一方、IoT.M2Mやスマートグリッドの進展で、通信形態や電力供給の形態が大きく変化することが予想される。「電気のあるところにトランスあり」といえるだけに、こうした新しい動きはトランス市場の大きな需要創出につながるチャンスとなりそうだ。”

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