拡大するプログラマブル表示器(PD)市場 三品向け小型装置でもタッチパネルの採用が増加 業務・民生機器向けニーズ高まる

産業用プログラマブル表示器(PD)市場は、日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、国内向け、海外向けでそれぞれ約230億円、合計で500億円弱となっている。NECAの非会員メーカーの出荷金額を加えると、500億円以上の市場規模を形成している。表示機器を取り巻く市場環境は、設備投資と強い相関性があり、半導体製造装置、環境機械などがPD市場を牽引している。また、業務・民生機器向けニーズも近年高まっており、今後の市場拡大が期待される。PDは、製造業の中でもさらなる拡がりを見せている。食品・医薬品・化粧品の、いわゆる「三品」業界向け小型装置でも、制御盤に物理的なスイッチ・ランプを用いるのではなく、小型のタッチパネルを採用するケースが増えてきている。本体価格の低減はもちろんだが、装置の短納期化、顧客ニーズの多様化などに伴い、配線工数の削減を含めたコスト低減や、装置の高機能化に貢献している。特にバーコードリーダーを直接接続できるタイプや、温度調節に必要なPID命令を実装したPLC一体型タイプ、データロガーとしても使用できるタイプは、PLCのシリアル通信ユニットや、温度調節器などの外部機器自体を削減できることから、コストダウン、機能アップといった目に見えるメリットが大きいため急速に普及が進んでいる。

■広がるアプリケーション
元々PDは、生産ラインや製造装置においてPLCの内部情報を表示、書き換える用途が主体であったため、PLCと1対1で接続し、ビット情報のON/OFFと、内部データの読み書きができれば主目的を達成できていた。ところが近年は「HMI(ヒューマンマシンインターフェース)」「情報ステーション」としての役割がメインとなり、装置の情報を表示するだけではなく、上位システムからの情報を表示し、現場作業者への情報伝達を行ったり、作業者が現場の状況を入力することで、上位システムに情報を伝達し、日報や生産管理データとして活用される事例が増えている。

また、ハードとしてのタッチパネル機能だけではなく、スマートフォンやタブレット端末との連携が強化され、生産現場とオフィスで発生するビッグデータを活用し、生産効率の改善を図るためのスマートポータルとしても機能している。

■民生分野での活用
産業用プログラマブル表示器は、その信頼性の高さと安定性、各メーカーのサポート体制と長期共有の安心感から、民生分野での活用も増えてきている。飲食店のオーダーシステムなどは、ローコストな民生用タブレットなどが主力になってきているが、駅の券売機、スーパーなどの飲料水供給装置、電気自動車の充電システム、医療用機器などの安定性と長期安定稼働が求められる分野においては需要が順調に増加している。

CPUの高速化や、メモリ容量のアップにより、表示器の段階で処理できる情報量が大幅に増加していることもあり、各種コントローラの稼働監視やモニタリング、エネルギー使用量の表示など活用される場面が増えている。エネルギー監視や管理などのテーマでは、メガソーラーなどの再生可能エネルギー分野や、スマートハウスなどスマート分野での市場拡大が確実視されており、表示機器の市場拡大につながるものと予想される。

■ハードウェアの新機能
ハードウェアとしての新機能も各社強化している。通信ポートもシリアルポート、EthrnetポートによるPLC以外の外部機器接続は当たり前で、SDカードなどのメモリカードスロット、画面データ転送用ではなく、USBメモリ用のUSBポートが搭載されている機種も普及してきた。

近年では指紋認証用ユニット、アンプ内蔵スピーカーなどが接続できるタイプも発売されている。まさに、作業者と装置との接点のインターフェイスとなる機器として活躍の場が広がっている。

■設計者の立場からの進化
採用する設計者の立場に立った機能も強化されている。輸出用装置の場合に必須な「多言語対応」に関しても、言語毎に作画するのではなく、別途コメントのデータデーブルを持たせることで、同じ画面データで複数言語に対応させることが当たり前になってきている。また、PLCの進化にあわせ、デバイス番号ではなく、ラベルと呼ばれる変数を用いて、作画した部品とPLCのデバイス連携が簡単にできる機能も搭載されてきている。直接接続できる機器を増やすために、多くのプロトコルに対応し、通信設定、接続方法は年々煩雑になってきているものの、それらをわかりやすくするために、各社HPでのサポートガイドページなどを充実させている。

ハード的にはパネル前面への通信ポート搭載により、制御盤を開けなくとも作画データの変更ができるようにしているタイプや、制御盤取り付けのためのパネルカットを、四角ではなく丸穴にすることで、現場での作業性を飛躍的に高めたタイプなども評価が高い。

■作業者の立場からの進化
液晶デバイスの進化による表示色数や視野角、輝度の向上などは見やすさに直結する。また、タッチ機能も進化しており、スマートフォンなどでは当たり前の「ピンチイン・アウト」による指2本での拡大、縮小などにも対応する機種や、画面サイズよりも大きな作画データを登録し、スクロールにより表示を可能にする機種も現れた。ワイド液晶搭載機種も各社ラインアップしており、使用環境にあわせた画面で操作ができるようになってきている。掃除がしやすく衛生的なフルフラットタイプや、屋外仕様の超高輝度タイプなどもあり、現場環境にあわせた進化を遂げている。

■今後の進化
スマートフォンやタブレット上で、製造現場のHMI画面が操作できるソフトウェアも伸長している。特に、こうした機器を使ったソリューションは、国内に加え、欧米でも好評である。Windows上で作動するアプリケーションに対応するタイプは、作業指示書やマニュアル確認、日報作成、データ分析など、オフィスで使っているアプリケーション・ソフトウェアが生産現場でも使用でき、現場の作業性向上に寄与すると思われる。また、従来は専用ソフトで作画したデータを、専用のハードウェアで利用することが常識であったが、OSやハードに依存しないコンセプトの製品も開発が進んでいる。同じ作画データを産業用プログラマブル表示器でも使いながら、Android端末でも活用するなど、従来の枠組みを超えた活用が期待される。

■海外向け展開
海外市場では、東南アジアを中心とした新興国市場向け需要も旺盛だ。人件費高騰により、自動化の設備投資が旺盛であることや、部品の小型化、高い品質要求などから、人手ではなく設備の自動化による品質アップ要求も需要を支えている。しかしながら、新興国向け装置の場合、コスト要求が厳しいばかりか、場合によっては装置に組み込まれる部品においても、現地調達が求められることもあり、日本メーカーでも、海外メーカーとの価格・サービス両面で競争にさらされている。そのような動きを見越して、思い切った価格設定を行うことで市場に参入するメーカーも現れてきている。

■新しく発生する課題
輸出やネットワーク接続が当たり前になったことで、新しい課題も発生している。特にウイルスや情報漏洩などのセキュリティ面は、従来のスタンドアローンの使い方では考慮することがなかったリスクのため早急に対策が必要だ。

ネットワークに接続されている=外部からの攻撃対象に成りうることを認識し、社内ネットワーク側でのセキュリティ対策も情報システム関連部署と連携し、しっかり構築していく必要がある。公衆ネットワークを用いながらも、仮想の専用線を構築する、VPN機能を搭載する機種も現れている。もちろん作画データの改ざん、盗用を防ぐたけのパスワード機能も年々強化されてきている。

■今後の展望
今後の動きとして、従来からの「操作用タッチパネル」としての機能に特化したローコスト製品と、IT分野までをカバーする高機能製品の二極化が加速すると考えられる。

また、製造装置自体で扱う情報量が飛躍的に増加してきていることから、「パネルコンピュータ」「産業用コンピュータ+液晶パネル」といった組み合わせで使用されていた分野と、「PLC+産業用プログラマブル表示器」の組み合わせで使われてきた分野の垣根が取り払われつつあり、PDの求められる役割の重要性がより高まってくると予想される。

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