混沌時代の販売情報力 黒川想介 “行き掛けの駄賃”をねらう

IT技術の急速な発展によって、便利な情報社会になった。世界のコンピュータには膨大な情報量が格納されている。オープンになっている情報はインターネットで結ばれた情報網で簡単に入手できる。しかし世界中のオープンになっている情報がいかに膨大でも、販売員にとっては隠れている情報量は圧倒的に多い。確かにIT社会出現の前に比べれば販売員の欲しい情報はネットで簡単に入手できて、情報量も格段に増えている。それでも顧客がオープンにしていない情報の方が多いのだ。

販売員には最重要の任務が二つある。一つは見込み客を見つけて、顧客にしていくこと。もう一つは顧客からの情報収集である。ネットでは見られない顧客情報をどれだけ引き出すか、それをどうやって引き出すかは販売員の能力にかかっている。販売員は冗舌の必要はない。むしろ、しゃべり過ぎはよくない。しかし顧客から情報収集する時には相手との会話が重要になる。

相手から情報を収集するのであるから会話の中心には質問がなければならない。情報収集するための質問には仮説が重要な役割を担う。既に述べてきたが、仮説の源泉には顧客からの直接情報とメディア等による間接情報がある。そこで得た情報をミックスして仮説を立て、さらに知りたい情報入手へ踏み込んでいくのが情報収集の醍醐味である。販売員は顧客を訪問する際に、こんな商品を使ってもらえるのではないかという仮説を立て、商品カタログやサンプル等を持参する。そして持参した商品カタログやサンプルの特徴を強調し、ぜひ使っていただきたいというアピールをする。それに対する顧客とのやり取りがあって、興味があるから見積もりを依頼する、興味はあるが今は使わない、あまり関係ない、などの返事をもらって一喜一憂して終わる。せっかく仮説を立てて顧客を訪問しても前記のようなパターンを崩すことができないのが数字を追っている販売員の習性である。

そこで商品やサンプルを持参し、売り込む場合に二つのことを念頭において臨むことを勧める。

一つ目は『行き掛けの駄賃を狙おう』である。最近の若い販売員はこのようなフレーズを使ったことがないようだ。行き掛けの駄賃とは、馬の背中に荷を乗せて運んでいた当時、馬子が馬を引いて問屋に荷物を取りに行く途中で、他の荷物をついでに運んで得る小銭のことであり、転じて、事のついでに他の事をするという意味である。ここで言う行き掛けの駄賃とは、他の情報のことである。興味があるという意思表示をもらったら、どこに、どんな役割で使うのか、などのように相手がやろうとしている方向へ話題を広げていって、知らなかった情報をとってしまうことである。あまり興味を示さなかったら、現在はどんな方法で行っているのかなどのように相手が既に行っている方法に話題を広げていけば、知らなかった情報が入ってくる。

二つ目は「当て馬作戦でいこう」である。当て馬とは、相手の反応や様子を探るために、仮の物を前面に出して、まず様子をみることである。アピールする商品やサンプルは最初から当て馬だと思えば、必死になって商品の特徴を述べることに汲汲とならずに済むから、他を見まわす余裕が生まれる。相手がよい反応を示さない場合でも、あせって矢継ぎ早に長所を言いまくる必要もない。ところでと言いつつ最初から用意した質問を投げて情報をとるようにすることである。二つとも馬に関係あるからおもしろい。

(次回は6月6日付掲載)

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