【インダストリー4.0】山田太郎の製造業は高度な情報産業だ!(9)

■ベース・オプション・カスタマイズの見直しを!

前回の連載では、インダストリー4.0の実現に対して、スペック・マネジメント、スループット・マネジメント、アセット・マネジメントの重要性について触れたが、連載後、具体的なスペック・マネジメントの方法についてのお問い合わせを多数頂いた。以前の連載では、「情報・実態の連鎖と変換過程」ということで、製造業のプロセス全体におけるスペック・マネジメントの重要性を説いたが、今回はより具体的にどのようにスペックをマネジメントするかについて触れたいと思う。

スペックをマネジメントしていく上で、重要となる視点は製品を企画・設計していく過程において、何が「ベース(基本)機能」で、何が「オプション(個別)機能」で、その先に個々の顧客からの要求に合せて何を独自につけることが出来るかという「カスタマイズ機能」をはっきりと分けることである。

この話をすると、自社では既にその考え方は確立しているという答えが返ってくるが、実際にコンサルティングの現場で見て見ると、顧客の要求を正確に理解せず、自社の製品に盛り込める機能をベースの部分に詰め込むことで製品の高付加価値化を目指したり、逆にオプションとすべきものを顧客要求に柔軟に対応するという名目のもと、全てカスタマイズ対応したりしているという例が非常に多く見受けられた。

例えばある個別受注型のモーターを作っている企業で実際に作っている製品のばらつきを調べたところ、出力やトルクといったモーターの本質的ではないと思われる軸長にばらつきが非常に多く出た。実際に顧客に聞いてみると、多くの顧客にとって軸長は厳密である必要はなく、あらかじめ適当な選択肢があればそこから選べる仕様であったが、注文書の記入欄が自由記入となっていたために、仕様がばらばらになっていたということであった。

特にこのケースでは、軸長の仕様がばらばらでも、製品1品1品の製造コストは大きく変わらない。ところが、製品群全体でのコストを考えれば、量産効果は働かず、在庫も積み上がることから、高止まりすることとなる。“顧客視点”に立った観点でのベース・オプション・カスタマイズの機能の切り分けがいかに重要であるかを示した例だろう。

基本的な方向性としては、ベース機能はあくまでもシンプルなスペックで設計し、量産効果を図る。新機能やある程度の顧客のみが望む機能はオプションとして切り離し、市場の動向によってこのオプション部分で柔軟にスペックを切り替えられるようにするべきなのだ。なんでもかんでも製品の機能がベースとして肥大化し、製品の流動性を欠き、仕向け地向けにスペックを切り替えることが難しくなり、新興国市場で苦戦を強いられたのは、ご存じの通りだ。

特に製品企画の段階では、営業からの「この機能があれば売れる」という情報に引っ張られすぎてベース部分が肥大化する傾向が強い。今まで以上に「どの機能の部品をどこからいくらで仕入れるのか」「どんな製造工程で作れるのか」「どの機能が原価にどのようなインパクトを与えているのか」などの検討を前倒して実施する必要がある。

そして、何よりも大切なのがこのベース・オプション・カスタマイズの定期的な見直しだ。特に日本企業はスペック・ダウンすることを過度に嫌う傾向が強い。時代遅れの仕様などはベースから落としてオプション対応とする、数量の出ないオプションはカスタマイズ対応するなど思い切った対応が必要になる。

これによって、それぞれの顧客にとってニーズに合わせた買いやすい製品となり、全体でマーケットボリュームの拡大を図れる。さらに、顧客に合わせた機能と価格のマッチングもでき、価格競争から脱却できる効果も出る。製品のQCDをコントロールし、あらゆる市場の変化、仕向地向けの需要の差に柔軟に対応できる製品の戦略的自由度を高めることがスペック・マネジメントをする上で非常に重要なのだ。

(参議院議員)
山田太郎(やまだ・たろう)参議院議員

慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を生かしステーツマン(政治家)として活躍中。

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